「自分がワクワクできたら面白くて当たるものができると信じてるんです。今回は、古代ローマ人も日本人も風呂好きという共通項をヤマザキさんが見つけたことで、古代人が現代文明に驚く手垢にまみれた設定が斬新に見える、その突き抜けた感じに惹かれた。ローマ帝国を壮大に描く一方で、日本をミニマムな世界に描いてギャップを生み出せば、観たことのない笑えるものができると思ったんです」
最高の食材(原作)が手に入った。となると、重要になるのは最高の料理(映画)に仕上げるセンスと腕。『テルマエ・ロマエ』では主演の阿部寛を始め、
日本人俳優がローマ人を演じるキャスティングにそれが顕著だが、これは冗談でも奇をてらったものでもない。
「原作でも主人公のルシウスが真面目だから笑える。それを本当のイタリア人や芸人さんでギャグっぽく作ったら逆にスベると思ったので、ローマ人の役は顔の濃い演技派の日本人の俳優さんに敢えてやってもらったんです。それこそルシウスは阿部さんの演技力があって初めて笑えるので、阿部さんに断られたら映画化を諦める覚悟でした」
「すべては予測不可能な要素を掛け合わせたら面白くなるだろうという化学反応式」と稲葉氏は続けたが、それはキャスティングに限ったことではない。
「例えば『告白』の成功は、ドぎつい内容を映像美で綺麗に見せる発明があったことも要因のひとつ。あの原作に中島哲也監督という掛け算が素晴らしかった。要は掛け算の化学反応式で何ができるか? そこをどう見極めるのか? が大事だと思うんです」
果たして『テルマエ・ロマエ』の化学反応式の成否は如何に? その結果に日本映画の未来がかかっている。
『テルマエ・ロマエ』
4月28日(土)公開