"プロレス者"として分かる……分かり過ぎるぞ、その気持ち! 『俺のプロレスネタ、誰も食いつかないんだが。』

続いて紹介したい作品が、さかなこうじ先生の『俺のプロレスネタ、誰も食いつかないんだが。』です。

この物語は、熱狂的プロレスファンであり、大の天龍源一郎ファンの中学生、虎山仁(クラス内でのアダ名は"虎")。物語は、虎が謎めいたクラスメイトの東雲たま子に、自分と同じプロレスを愛する"プロレス者"としてのシンパシーを感じるところからスタートします。

明らかにプロレスファン(全日派、特にスタン・ハンセンのファン)で、プロレス技の使い手であるにも関わらず、自身のプロレス愛をひた隠しにする、たま子。この漫画は、そんなたま子と虎の二人を軸に、プロレスを愛する者同士の友情や家族愛、そして、淡いボーイ・ミーツ・ガールのドラマが描かれます。

プロレスファンが主人公の漫画ということで、プロレスが好きな人ならば共感必至の"ファンあるある"なネタを中心にストーリーが展開されます。

時に、プロレスラーの熱い戦いに心震わせ、時に、世間からのプロレスに対する冷めた視線に対してプロレス愛を武器に立ち向かう。本作では、そんなプロレス者特有の暑苦しくも真っ直ぐな生き様がユーモアを絡めつつ、活き活きと描写されているのです。

この作品の舞台となるのは、他団体時代に突入し、プロレスブームに沸く1993年の日本。この頃は、メジャー団体である新日本プロレスや全日本プロレスがドーム興業で空前の観客動員数を記録し、インディーシーンでは大仁田厚が涙のカリスマ化するなど、プロレス界が非常に熱を持っていた時代です。

とはいえ、世間のプロレスに対する偏見は根強く、当時の熱気に反してファンは様々な場面でヤキモキせられた時代でもあります。まずは、この時代設定が何とも絶妙。

そんな時代にプロレスラーへのリスペクトを胸に、一途に突き進む主人公の姿は、ひたすら眩しく、心から応援したくなります。また、たま子ちゃんの健気さがいいんですよ……。

更に、劇中で描かれる「好きなものへの愛をなかなかカミングアウトできない辛さ」や「新規ファンを蔑むマニア問題」といった"ファン"ならば、プロレスに限らずあらゆる場面で見られる普遍的なテーマ性は、虎やたま子と同じく「愛する何かを持つ者」たちにとっても、これまた共感間違いなし。

全2巻とコンパクトにまとまってはいるものの、故に青春漫画としてもプロレス漫画としてもドラマが凝縮されており、非常に読み応えのある作品に。プロレスファンのみならず、好きな物に対して一途な情熱を燃やしているあらゆる人に読んでいただきたい漫画です。

屈強な新日レスラーたちが、こんなに可愛いキャラクターに!? 『しんにち!』

強者のオーラを全身から放ち、その鍛え上げた肉体で、どんな攻撃も跳ね返し、リングを降りれば常識破りかつ豪快な言動でファンを魅了してくれる……それがプロレスラー。そう、プロレスラーとは、まさに"カッコ良さ"の象徴なのです!

しかし、そんなカッコ良いプロレスラーをチャーミングな"可愛い"キャラクターとして描いた異色の漫画作品があります。それが、この『しんにち!』です。

『しんにち!』は、そのタイトル通り、新日本プロレスの協力のもと、同団体の所属選手が実名で漫画の主役として登場するユニークな四コマ作品。

この漫画の中で新日レスラーたちは、「新日本プロレス高専」という架空の学校に通い、プロレスを勉強している高校生という設定になっています。

トコトン明るい性格で負けず嫌いな棚橋くん(棚橋弘至)、硬派だけど実はムッツリスケベな後藤くん(後藤洋央紀)、厳しくも真摯にプロレスや生徒と向き合う真壁先生(真壁刀義)、天才的なプロレスセンスと恵まれた肉体を持っているものの、物忘れが異常に激しく無口なオカダくん(オカダ・カズチカ)……などなど、劇中に登場するキャラクターは全てモデルになった選手の性格やファイトスタイルが下敷きとなっており、新日ファンならば非常に親しみやすい造型に。

一方で、永田裕志はプロレス部のマネージャーを務めるゴツい体型の女子生徒になっていたり、獣神サンダー・ライガーをオマージュした覆面レスラーの正体が可愛い女の娘(しかも、名前は"山田恵")だったりと、思い切った改変が加えられたキャラもおり、作中の登場人物と実在のレスラーとの対比が楽しい作品です。

この漫画の作者は、『まじかるストロベリィ』や『キミとおやすみ』などの作品で知られる、まつもと剛志先生。

『まじかるストロベリィ』を世に送り出した漫画家さんが、プロレス漫画!? と、先ずは、その意外性に驚かされますが、これがまつもと先生の柔らかでポップな絵柄とギャグセンスが新日レスラーのキャラクターと上手くミックスされており、学園ギャグ漫画として非常に読み応えのある作品となっています。

また、劇中には細かいプロレスネタが散りばめられており、そうしたネタの数々も見どころの一つ。しかも、基本的には陽性のギャグ漫画作品でありつつも、要所要所でプロレスのドラマ性とその真髄を描く場面もあり、プロレス漫画として痒いところに手が届く、絶妙な作劇が素晴らしい!

いわば、"カッコ良い"と"可愛い"の異種格闘技戦。大幅なデフォルメこそ加えられていますが、プロレスの見どころや新日レスラーの特色を教えてくれる「新日本プロレスファン入門編」的な手引書として読んでみるのもアリですよ!