『美男(イケメン)画』はどのように生まれたか?

作者の木村了子さんに、制作の経緯や「イケメン」についてお話を聞いてみた。

―― 男性をモチーフに描き出したのはなぜでしょうか?

同じ性別である女性を描くと、どうしても自己投影の要素が入り込みます。それも良いのですが、自分の恋愛対象である男性を描いたほうがより人物を色っぽく描けるのではないか、と思ったことがひとつのきっかけですね。

それから、単純に男性を描いた作品が少なくて、なぜ人物画と言えばほぼ女性像なのか? それに疑問を持たないのか? と感じたことも理由です。

――最初に描いた作品はどんなものだったのですか?

モデルを探すことから始めました。ヌードを描くつもりはなかったのですが、モデルさんが「何でもやります!」と言ってくれて。以前女体盛りを描いたものの、失敗してしまったことがあって、そこで男性盛りはどうだろう? と思いつきました。それで「私のお皿になって!」と(笑)。実際にいろいろな料理を作って、載せて、描いて……。

もう10年くらい前ですが、いまだに象徴的な作品として話題にしていただきますが、その時は『イケメン』を描くことは意識していなかったですね。

―― 木村さんが考えるイケメンとは?

概念ですね。カワイイと同じようなものですが、さらに広義に使えます。全体としてアジアンビューティーを意識しています。西洋は男性ヌードが多いので自然と目にするのは西洋人のヌードが多くなりますが、アジアの男もかっこいいじゃないですか。

あとは髪型も大きいと思います。イケメン然とした髪型があるんですよ。男性のヘアスタイルって実は意外に作り込まれていて、結構そこで左右されると思います。ヘアカタログや周りの男性を参考にしています。

個人的におしりも好きですね。女性のおしりとはまた違う魅力があります。「男子楽園図屏風 East & West」では、女性だと身体を美しく見せる『女豹のポーズ』があるじゃないですか。あれをどうやったら自然に再現できるかと考えて、田植えだ! と思いつきました。

―― 描かれる男性は「理想のタイプ」なのでしょうか?

いろんなタイプのイケメンを描いていますから、自分の好みのタイプもいます。展示されている作品の中で強いてあげるなら玄武(目覚めろ、野生! 玄武「ガラパゴスの夢」)の子かな。思い入れのあるイケメンのほうが、評判になることが多いですね。

―― 描くときに気をつけていることは何ですか?

筋肉は男性らしさの象徴なので意識しています。描き始めた当初は比較的細身の男性が多かったのですが、どんどんマッチョになってきました(笑)。個人的にも前よりマッチョが好きになってきましたね。

―― 海外でも作品を展示されていますが、日本と比べて反応や好みの違いはありますか?

今はそうでもないけど、直接的な表現のものは日本ではドン引きされることもあったのですが、海外では比較的オープンに受け入れられました。春画も日本よりアートとして認められているので、おばちゃんたちもガン見してました(笑)

男性らしくガッチリめの体格を描いているつもりでも、西洋の方々から見ると女性的に見えるみたいです。ムキムキに描いたつもりでも「細くて中性的ね」 と言われることも……。

――今回の「おとぎ話」というテーマをメインに選んだ理由は?

作品を作る際は、コンセプトやストーリーを固めてから描き始めます。そのストーリー、つまり物語。そしてイケメンという、ある種のファンタジーから来ています。

私たちは童話や、それを基にしたディズニー作品など、いろいろなおとぎ話に強く影響を受けています。きれいで素敵な物語の裏には、残酷な描写もあれば、「いつか王子様がきてくれる」、「女性は女性らしく」などの戒めや教訓があったりもします。でも、男性らしく、女性らしく、ということが崩れている現在で、主人公の女性たちを男性に置き換えてみると、また違う見方ができるかと思いました。

―― 「おとぎ話」という言葉から、どんなものを想像しますか?

お伽噺の語源である『伽』には、人をなぐさめるという意味があります。『夜伽』だとエロティックなイメージになりますよね。昔から人から人へ口伝されてきた物語、長い夜に絵本を読み聞かせるような、夜の共としてなぐさめになるようなイメージが、今回の展示にぴったりかなと。

―― 来場する方へのメッセージをお願いいたします。

本来、美しいものに性差は関係ないと思いますので、深く考えず女性にも男性にも楽しんでほしいですね。また、和と洋の伝統的な様式にのっとりつつ、現代のイケメンを描くという自分なりの和洋折衷感も楽しんでいただきたいです。

BL文化の隆盛などもあり、女性も男性を描くことが増えてきました。いまだに女性のヌードのほうがきれい、という人もいますが私から言わせると「ありえない!」ですよ。

この機会にもっと多くの人が男性を描いて、その作品を多くの人が楽しめるようになるといいですね。いろいろな人が描けば、比べることもできますし、より幅広い視点で作品を見ることができるはずです。

お伽話にでてきそうな王子様や、擬人化されたイケメンたち。過去の作品から新作まで、さまざまなイケメンが取り揃えられた今回の個展。

「こんな男、現実にはいないよ!」と言う人もいるかもしれないが、それでいいのだ。そもそもイケメンは概念であり、ファンタジー。木村さんが作り出したお伽話の世界で、色気たっぷりなイケメンたちに心奪われ、ひとときの癒しを味わおう。

(篠崎夏美)

木村了子個展 「お伽話- IkemenMarchen」

2016年4月13日(水)-4月24日(日) 11:00-20:00
※4月18日月曜休館 ※最終日は18:00まで

The Artcomplex Center of Tokyo /アートコンプレックスセンター
〒160-0015 東京都新宿区大京町12-9 B1F artcomplexhall

日本中、そして世界の“面白いイベント”情報を探し出し、紹介することに拘るWebサイト『イベニア』。規模の大小を問わず、斬新な企画のイベント、思わず人におススメしたくなるイベント、とにかく変なイベントなどの情報が満載。