――あれもこれも教えなきゃと思っているうちは、子どもの話を聴けるモードではないということですね。

お「モードが切り替わると、親も気が楽になりますし、待つことができるようになります」

――たしかに、常に親がしっかりしなきゃいけない状態が続くのは、すごくストレスフルです。

親が黙っているときに、子どもって、ぽろっとすごく哲学的とも言えるようなことをつぶやいたりしますよね。そういうことを聞き逃さないようにしたいです。

お「よほどのことをしない限り、子どもはちゃんと育つんです」

――よほどのこととは?

お「たとえば、“東大に行かないと人生おしまいなのよ”と言い続けるとか、普通の子どもなら経験するようなことをことごとく排除するとか、そういう極端なことですね。

それ以外は、子ども自身を見ていればいいんだと思いますよ。

子どもが自分にとって大切なものに出会ったとき、かならずキラッと表情が明るくなります。そのとき、近くに両親、もしくは信頼できる大人がいれば、“すごいものみつけちゃった! 今の見てた?”って振り返るはずなんです。

それに対して“見てたよ”って答えてあげると、子どもは自分の感動が正しいことなんだとすごく励まされるんです。自分の興味に向かって突き進むことに勇気をもらえるというか。そうすると、子どもは伸びます」

――子どもが振り返ったときにちゃんと受け止めることが大事なのですね。

お「それさえできれば、子どもはちゃんと自分の特性をわかって、自分の強みを強化していけます」

私たちは皆、これからどうなるかわからない時代に生きています。それは親も子どもも同じこと。であるならば、親が子どもに生き方を教えられると思うほうがおこがましいのではないでしょうか。

むしろ、親はもがいていいし、その姿を子どもに見せてもいい。子どもから学べることも多くあるかもしれない、とおおたさんにお話をうかがって思いました。

男の子を育てることは大変、と気負い過ぎることなく、まず子どもを信じて、子ども自身をみることから始めてみませんか。

【取材協力】おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年、東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌の編集に携わる。
学校や塾、保護者の現状に詳しく、各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演も多数。中高の教員免許を持ち、小学校教員の経験もある。著書は『名門校とはなにか?』(朝日新書)『ルポ教育虐待』(ディスカヴァー携書)など50冊以上。