子供の書いた台本を、よってたかって演劇にすることはできないか?
生々しく社会をきりとる劇作家として知られる岩井秀人と、俳優にしてダンサーの森山未來、ミュージシャンの前野健太の3人が「コドモ発射プロジェクト」を発足!
「子供の書いた台本を、よってたかって演劇にすることはできないか?」。
東京芸術劇場の芸術監督・野田秀樹からそのアイデアを聞いた岩井が、森山と前野と、子供たちにワークショップで書いてもらった台本を元に芝居を創っていく、予測不可能な前代未聞の演劇体験。
そこには子供だから閃く、大人たちが何時間かけても産み落とせない「世界」が広がっているが、その創作のプロセスでは子供たちの「想像力」と「創造力」を育てるヒントが見え隠れする。
今回のプロジェクトの仕掛け人・岩井秀人と森山未來のこの対談を読めば、あなたも子供との向き合い方がちょっと変わるかもしれない。
「コドモ発射プロジェクト」ってそもそも何?
岩井 もう7年前になるけれど、野田秀樹さんが東京芸術劇場の芸術監督になったときに「子供が書いた台本を大人が寄ってたかって演劇にする」というアイデアを話されていて、僕はそれに興味を持ったんです。
大人たちが解読不可能なことをさも理解しているかのようにやる。相当無理なことをすごく大真面目にやるというところに面白さを感じたんだと思いますね。
――具体的に動き出したのは?
岩井 2011年ぐらいです。野田さんがなかなかやらないから、「それじゃ僕がやります」と言って、イスラエルでのダンス留学から帰ってきた未來くんに声をかけたんです。それが2014年かな。
――なぜ森山未來さんだったんですか?
岩井 とにかく一緒にやりたくて(笑)。僕、『モテキ』を観て、あんなミュージカル映画を成立させちゃう大根監督にもビックリしたけど、あの役をやって、男の人にも女の人にもバリバリに愛された未來くんは本当にスゴいと思ったんですよね。
森山 愛されたのかな?(笑)
岩井 あれは愛されたよ~! しかも映画館で、お客さんがみんな声を出しながら面白がっていたのも印象的だった。
森山 あれはなかなかないですね。
岩井 でも、昔からそうやって一方的に観ていたけど、あれ、この人、俳優じゃないのかな? みたいな謎な活動をしていることも含めて、この企画の名前も決まってないときから未來くんと一緒にやりたいなと思ってた。
ただ、それはいわゆる俳優さんと一緒にやるという感覚ではなかったけど。
――森山さんは岩井さんから話を聞いて、どこに興味を持たれてこのプロジェクトに参加しようと思ったんですか?
森山 純粋に面白い企画だなと思ったんです。
そのときはまだ「コドモ発射」とも言ってなかったような気がするけど、僕もイスラエルで観たチルドレンショーを作りたいという気持ちがあったから、タイミングがちょうどよかったんですよね。
――そのチルドレンショーも子供たちの発想から演劇を作っていくんですか?
森山 イスラエルにはダンスカンパニーがいっぱいあって、僕もそのひとつにお邪魔していたんですけど、どのカンパニーもだいたいチルドレンショーをレパートリーとして持っていたんです。
要は子供たちのために定期公演をやっていて、舞台を観せる機会を開いていたわけなんですが、それがすごくいいなと思ったんですよね。
――どんな内容のものをやっているんですか?
森山 決して子供向けの可愛らしいものではなく、それぞれのカンパニーの色がそのまま出ている大人が観ても子供が観ても楽しめるような作品たちで、子供にまったく媚びていないんですよね。
でも、乳幼児や小っちゃい子供が親と一緒に観ることができて、やかましくても別に大丈夫な時間がそこにはちゃんと用意されている。
その空気感こそが非常に重要だと思ったし、観慣れてない人には舞台の敷居は高いと思うけれど、小さいころからそういったものに触れていると、その敷居の感覚は薄くなっていくから、その意味でもチルドレンショーは大事なんじゃないかなと思っていたんです。
台本を書くのは子供たち
――今回の舞台を想定して、昨年から子供たちとのワークショップを始めたんですよね。
岩井 そうですね、3、4回ぐらい子供に台本を書いてもらって、それを読んで「何、これ?」って言いながら、みんなでワイワイ作っていきました。
でも、それがすごく面白かったですね(笑)。
――台本を書いてもらうことがワークショップのテーマだったんですか?
岩井 そうです。でも、いきなり台本を書かせるのはちょっとハードルが高いと思ったので、まずは車座になって、好きなお喋りをしながら順番に話を繋いで、それを僕がメモしていく感じでやって。
そこで出来上がったものもあるし、それをやった後に実際に書いてもらったりもしました。ただ、単独で書いてもらったものにも、みんなで数珠繋ぎのように話を作っていったときの影響が出ていて。
だから、最初から書かせた方がそれぞれの独自性が出るのかなと思ったし、僕は子供たちが話を作りやすいようにいろいろ考えたけれど、別にそれはいらなかったような気がしています。
――椅子に座ってテーブルで書くんですか?
岩井 そうですね。でも、そこらへんに寝そべって書いている子もいたし、イヤになって高いところに上っている子もいました。
でもあるとき、そのワークショップに未來くんが「ワークショップを1回見学に行って、岩井さんと会ってみて」って前野くんを誘ってくれて。
僕は知り合いじゃなかったんですけど、そこで前野くんが来たのが僕にとってはすごく大きかったですね。
――何か歌ってくれたんですか?
岩井 そうじゃないですね。前野さんはただただ僕のワークショップを見学していただけなんですけど、僕はそのとき、程よく子供っぽく、程よく壊れてて、程よく残酷で、程よく言葉が間違っていて、みたいなものをどっかでたぶんイメージしながらやっていて、そうならないな~と思っていたんですよね。
でも、前野くんは、子供たちが2時間ただただ書き続けているその光景を観終わった後に「本当に面白かった」と言って。
子供たちが書いたものも見て、前野くんは文章全体ではなく、もっと細かな1小節1小節に衝撃を受けていた。それを聞いて、僕もまったく視点が変わったんです。
――歌詞みたいな捉え方なんですね。
岩井 そういうことですね。例えば「からだは海に、あたまはやおやに」って書いてあったんだけど、何の文章だか分かんないじゃないですか。
だけど、前野くんは「この言葉にはすでに歌がある」とか「詩情」という言葉を使ってすごく面白がってくれて。
あっ、この視点の前野くんには絶対にこのプロジェクトにいてもらいたいと思いました。
――それまでは、子供たちが出してきたものを普通のものにしてしまう危険性があったわけですね。
岩井 そうなんです。僕も普段はそういうことにすごく文句を言っているのに、ほかならぬ僕がそういう視点で見ていたので、これはちょっとヤバいと思いました。
森山 でも、抽象的なことをやろうとしているわけではないですもんね。
岩井 そうだね。
森山 子供たちから引っ張り出されるアイデアや初期衝動の強さもありつつ、しっかり構成して伝えたいという気持ちもどこかにありましたからね。
――森山さんはワークショップにはどんな取り組み方をされていたんですか?
森山 身体のワークショップも考えたんですけど、子供たちから身体を引き出そうと思ったときに、何が出てくるのかちょっと想像ができなくて。
乳幼児ぐらいの身体だったら、僕、すごい興味を持てたと思うんですよね。
岩井 そうなんだ。
森山 彼らって全然ケガしないじゃない。もちろん、机の角とかで頭をぶつけたら血は出るけど、そのへんに転がしといても、転がり方のその重力の任せ方が素晴らしくて、ヘンに頑張らないじゃないですか。
むしろ、筋力がなくて頑張れないから、立ったり歩いたりするときもすごく不思議なバランス感覚ですよね。
ああいうのはすごく興味があるんですけど、小学生ぐらいの子供たちの身体で、何か面白いことがあるかなと思ったときに、あんまり開いてこなかったので、僕も今回は岩井さんのやる物語を作るワークショップに一緒に参加して。
外からではなく、中にいるポジションから子供たちが書いているのをずっと見ていました。