子供に目線を合わせ過ぎる作品にはしたくない

――見ていて、どんな発見がありましたか?

森山 子供たちの突飛な発想や無邪気さ、不条理さももちろん面白かったけど、僕は彼らに対応しているマエケンや岩井さんがいちばん面白くて(笑)。

さっきのチルドレンショーの話にも繋がるけれど、子供にあまり目線を合わせ過ぎる作品にはしたくないなという想いもありましたからね。

――目線を合わせ過ぎない?

森山 先日、城崎国際アートセンターで2週間滞在制作していたんですけど、そこの館長の話がすごく象徴的で。

ある映画館に2つのスクリーンあって、一方では成人映画をやっていて、片方では子供向けのアニメとかをやっているらしいんです。

でも、子供向けのスクリーンの方でもアニメの1本目と2本目の間に成人映画の予告編がポッと普通に入っちゃっているらしくて。

子供たちは親からは絶対に観せられることのない、自分のいまの環境では観ることのないものを観てしまうわけですけど、そういうものを観てしまったざわついた感覚ってひどく残るじゃないですか。

今回の『なむはむだはむ』もそんな作品になればいいんじゃないかな~と思ったんです。

――具体的にはどうしようと思ったんですか?

森山 子供のホン(台本)を僕らがもちろんなんとか形にするんですけど、そのときに自分たちの感覚で向き合うことがいちばん大切だと思ったんです。

さっきの「からだは海に、あたまはやおやに」というフレーズが面白いと思う感覚は、マエケンのものだし、岩井さんのものですよね。

それは大人と子供ということでただ分けられることじゃない。それを書いた子供のセンスだし、それを面白いと思っている僕らのセンスだから、そうやって立ち向かっていくと、結局はいつものように誰かが作ったホンを僕らがどうにかするだけの話というか。

なので、そういう感覚でやれたらいいのかなと思っているし、逆にそれで子供とはなんぞや、大人とはなんぞやっていうのも浮き上がってくると思ったんです。

――その共犯関係の説明はすごく分かりやすいです。

森山 「子供は面白い」って僕も言いそうになるけど、却下しているものも山ほどあるしね(笑)。

その点では子供から台本を募集してるけど、自分にないフィルターで面白いかどうかなんて選べない。

だから、結局はこの3人がチョイスしたセンスのものにしかならないし、それでもちろんいいと思っています。

変わった作品タイトル「なむはむだはむ」は子供の発想から生まれた

――今回のタイトル「なむはむだはむ」もワークショップ中に出てきた言葉から生み出したんですよね。

森山 生み出したというか、そのままです(笑)。

岩井 なんか、お母さんが…あれ違うな。

森山 いや、それです。母親が最終的に死んじゃう話で、最後に「南無阿弥陀仏」って言いたかったんだけど、たぶんその言葉がパッと出てこないままとりあえず書いたら「なむはむだはむ」になってたってことだと思うんですよ。

でも、この話自体もすごく不条理で。

岩井 すごいヘンな話なんですよ。

森山 ある主人公がいて、その子の母親がいつもその人に「こまごま買ってきて」って言う。でも、その意味はまったく分からなくて。で、100年後、僕は106歳。

その意味が分かったころには母は死んでいた、なむはむだはむ。以上。みたいな話で。

岩井 お~い!って(笑)

森山 でも、引っかかるポイントが山ほどあって、ザワッとするんですよ。

――そんな話、考えても書けないですよね。

岩井 考えてはできないですね~。

――岩井さんが自分の想像を超えてビックリしたようなものはありました?

岩井 僕の中では『ガイコツ』という話ですね。それは、物語はある程度成立していたので、あとはやり方かなって思っていたんですけど、城崎で僕がその台本を読み、それを聞いた未來くんと前野くんのふたりが感じたままに動いたりシェイクしていくうちに、中に書いてあることがどんどん浮き上がってきて。それが面白かった。

――どんなものが見えてきたんですか?

岩井 それがさっきの「からだは海に、あたまはやおやに」っていうフレーズが出てくるホンだったんですけど、八百屋で自分の骨を埋めようして、なんかポッキー…実際はポーキ―って書いてあるんだけど、ポッキーを入れて、その後、林檎を心臓の代わりに置いて、血が出ないけど、まあいいかとか、最初はなんかそんなことが滅裂に書いてるだけかな~と思ったんだけど、前野くんがそれをどうしてああいうふうに形容したのか分からないけど……。

森山 あの人は何かと「男と女の話」にしたがる(笑)。

岩井 やりながら、この物語ってジミヘンの歌詞みたいだなって思ったんですよね。

呪術的な何かがあるのを感じるし、「なむはむだはむ」という言葉だって、さっきの未來くんの説明がなくても、なんとなくその感覚が音で伝わるんですよね。

そこは子供の感覚では成立するからその言葉を並べたんだろうけど、そういった衝動が僕たちに勇気を与えてくれて。

いろいろなフィルターをかまさず、ポンと言ったり、書いたりすることで出る味を信じようと思ったんです。

森山 いまの『ガイコツ』は話としても面白いけど、子供が書いた原本は何て書いてあるのか分かんなかったり、「なむはむだはむ」みたいなよく理解できない表現も多くて、それも面白かった。

それで、これは「南無阿弥陀仏」のことだな、といった自動変換をせずに読んだらどうなるのかな? と思って、それで『ガイコツ』を読み始めたときに、僕の中にいろいろな人が出てきたんですよね。

まあ、これをまた説明してそれを文章にしてもらっても、まったく意味の分からないことになっちゃうんですけど。

岩井 森山未來がまたどっか遠くへ行ってるなと思われるよ(笑)。

森山 いやいやいや(笑)。でも、そういう誤解釈が上手く入ってきたり、そのプロセスを見せて、子供が書いていることもバカバカしいけど、オマエたちもバカだなって感じになったら面白いというか(笑)。どっちが子供なんだ? みたいな見せ方もあるかもしれないですね。

岩井 立ち上げていく最中に起きることがやっぱりすごく面白いから、なるべくそれをそのまま(舞台に)乗せられるといいなと思っています。

急に歌い出しちゃったりとか、急に喋り出しちゃったり、なんてことをね。