「離婚したくても、できない人」は想像以上に多い
ーー『離婚してもいいですか?』では、どうしても離婚したいと心に決めている主人公の姿が印象的でした。野原さんはこのような主人公をどう思いますか?
野原:正直に言えば、この主人公にはとてもモヤモヤします。でも、子どものことを考えるとやっぱりこういう結論になるかな、とも思います。
こちらは「ママ友がこわい」と真逆で「私の話を聞いて聞いて!」と経験談を話してくださる方がとてもたくさんいて・・・。
「離婚したいと思っているけど、離婚できない人」が想像以上に多くて驚きました。
中には、もうどうしたってそれ離婚しなきゃ!という例もあるのですが(暴力など)、それでも「子どものために」、そして「離婚後生活していける自信がない」、と夫に切り出すことができない。そんな方が多かったですね。
そして、やはり『離婚してもいいですか?』の主人公のように誰にも話せず心の中でモヤモヤのくりかえし…。
——このコミックに共感されている人も多いでしょうね。
野原:周りからは「読んでみたい本No.1。そして買いにくい本No.1。」「店頭で非常に手に取りにくい本」などという言葉をいただきました。
また、読者の方からは、「自分自身のことだと思った」とか「涙が止まらなかった」というご意見も多数いただきました。お話的には大した事件が起こるわけでもないのですが、わかる人にはわかる、心の中で叫びつづけている言葉と主人公を重ねていただいているようです。
若い方から70代の方までもご感想をいただいて、このテーマに興味をひかれる方は年齢問わずいるんだと感じました。
また、男性の方からは「奥さんに読ませて「これ、わかる~」って言われたらどうしよう…」という感想もありましたね。
実は今「離婚してもいいですか?」の新作別バージョンを料理雑誌『レタスクラブ』さんにて連載中なのですが、主婦の皆さまにざわめきが起こっているようです。
『レタスクラブ』といえば明るく健全なイメージなので、このテーマでの連載は「いいのだろうか?」と冷や汗がにじむ感があったのですが、徐々に支持をいただいているようです。
普通の主婦だったからこそ、描ける感情がある
——この2冊はフィクションですが、子育て中のママなら共感できるポイントがいくつもあると思います。このようなリアルさはどのように生まれるのでしょうか?
野原:私、気が付けばアラフィフという世代になったんですが(!)ママになって、さらにこの歳にならなければわからなかった感情ってあると思うんですね。
自分の子どもを抱けて、なんて幸せなんだろうとか、でも同時に「なんでおっぱいが出ないの」とか、子どもを産む前だったら何も感じない一言が涙が出るほど悲しいとか、いい感情も悪い感情も経験してきたなと思うんです。
あえていうならば、ただのお母さんで普通の主婦だったからこそ、今描くことができているんだろうなと思います。執筆活動は、子育てしながら見てきたもの聞いてきたもの、そして心の奥にどんよりと残っていたものを引っ張り出してきているような気がします。
「離婚してもいいですか?」の中で夫が壁を蹴って、壁に穴が開くという場面があるのですが、これはネットの育児相談で読んで「これは許せん!」と思って描いたのですが、本が出来上がった後に自宅の壁に穴を見つけまして「この穴はなんだったかな?」と思いだしてみたら、昔、夫とケンカをしたときに夫が怒り任せに蹴って開けた穴だったんですよ。本当にすっかり忘れてたんです。
フィクションで描いているようで、自分自身で経験していたことを知らず知らずのうちにチョイスしていることに驚きました。人間って、嫌なことは忘れたって思っても、どこかで覚えてるんですね。