鏡に映った真実と、「未来」を愛するということ

カリフォルニア ディズニーランド・リゾート内で公演されている「ロイヤルシアター」でのラプンツェルとフリン ©︎Disney

ゴーテルに連れられ塔に戻ったラプンツェルは、部屋中に散りばめられた太陽のモチーフをみて、自分が何者なのかに気づきます。

この映画には、物語を象徴するアイテムがいくつも出てきます。

コロナ王国の紋章である太陽に、魔法の力を持った花、ラプンツェルの長い髪や、最高の武器であるフライパン。

それとはまた別に注目して欲しいアイテムがあります。

それは、ラプンツェルの塔にある大きな鏡です。

物語の当初、ゴーテルはラプンツェルと二人でこの鏡に映り、まるでラプンツェルなんて映っていないかの様に話します。

みなさんご存知の通り、『白雪姫』の時代から、鏡は「真実を映すもの」という役割があります。

もちろんラプンツェルの塔にある鏡も真実を映しているはずですが、ゴーテルにはそれが見えていないのです。

鏡が登場するシーンですが、ラプンツェルがティアラの存在に気づき、初めてティアラを頭に乗せるのも鏡を見ていますし、ゴーテルがラプンツェルに対して「あんたは一生塔の外に出られない」と激昂したシーンでは、鏡は後ろを向いています。

ねぇ〜意味深でしょ〜? 

自分が「消えたプリンセス」であるという「真実」に気付いたラプンツェルは、ゴーテルを押しのけて自分がいるべき場所に向かおうとします。

ゴーテルが今まで隠してきた真実が白日のもとに晒された時、ゴーテルにとって都合のいいものしか見えなかった鏡は割れるのです。

私が『塔の上のラプンツェル』という物語を愛する理由は、ラプンツェルがかわいいことと、人生を変えられたということもありますが、このように、ストーリーの中で散りばめられた仕掛けのようなものが好きだから、という理由もあります。

とにかく100点満点中5億点なんですよこの映画! 

愛する人の未来を何よりも愛した男

ゴーテルに後ろから刺されたフリンを見たラプンツェルは、ゴーテルに全力で抵抗し、フリンを助けることと引き換えに言うことを聞く、と約束をします。

絶対に約束を破らないラプンツェルのことです、おそらく本当に自分の未来と引き換えに、フリンの命を選んだのでしょう。

しかしフリンは、「君が犠牲になってしまう」と、ラプンツェルを制します。

初めてこのシーンを見た時、「犠牲になると言っても、ゴーテルはラプンツェルの命までは取らないのでは? 」と思ったのですが、そうじゃないんですよね。

これまでずっと自由に生きてきたフリンにとって、自由じゃなくなること、ましてや、ラプンツェルの未来が奪われることは、死にも値することだと知っていたんですよね、彼は。

フリンはキスをすると見せかけて、手元に忍ばせていた割れた鏡の欠片を使い、ラプンツェルの髪を切り裂きます。

それは、ラプンツェルの髪から魔法の力が失われ、フリンの命がもう助からないことを意味します。

すべては、ラプンツェルの輝く未来を守るため。

愛する人の未来をなによりも優先するって、それはもう何にも勝る真実の愛だと思いませんか。

ラプンツェルは、もう魔法が宿っていない髪でフリンの傷を癒そうとしますが、それは叶いません。

死にゆくフリンはラプンツェルに、「君は俺の新しい夢だ」と伝えます。

そしてここで、ラプンツェルは「あなたは、私の」と言い澱み、フリンが自分の新しい夢だ、とは言わないのです。

だって、ここでラプンツェルがフリンを「新しい夢」にしてしまったら、もうその夢は2度と叶わなくなるから。

フリンは本当に、ラプンツェルの未来を愛していたんですよね。

愛にはいろんな形がありますが「あなたの未来を愛する」という人の愛し方は、たくさんの優しさが込められていると思います。

フリンは本当に、優しい人なんですよね。

フリン・ライダーずるくない? 

生き絶えたフリンに、ラプンツェルは変わらず魔法の花の歌を歌いかけます。

ラプンツェルの涙が、太陽の雫の様に一粒こぼれ落ちると、光が溢れ、フリンは息を吹き返します。

このシーンのBGMの使い方が神すぎてやばくないですか、突然語彙力が消失するレベルです。

ゆっくりと目を覚ますフリンは、髪を切って金髪からブルネット(栗色の髪)に変わったラプンツェルを見て、「俺、言ったっけ? その髪の色の方が良いって」。

この男は〜〜〜!!! 

本当に、ずるいですよこの男! 理不尽にキレたくなるくらい良い男で腹が立ちます。

その後にラプンツェルを抱きしめる時、ラプンツェルに見えない角度で、眉間に力を入れて一瞬だけシリアスな顔をするのが本当にずるいです。

なんなんマジで。

Happily Ever After! 

ゴーテルは消え、ラプンツェルとフリンは王国に戻り、ふたりはいつまでも幸せに暮らしました。

このように、どストレートにハッピーエンドな作品が、最近では逆に珍しくなってきている気がします。

悪の側にも事情はあるし、善だと思っていたら実は善ではなく、みたいな、モヤモヤした含みのある、ハッピーエンドとは少し違ったエンディングが好まれる世の中で、『塔の上のラプンツェル』は、「いつまでも幸せに暮らしました」というセリフで映画が終わります。

それでいい、それがいいんです。

ラプンツェルのようにまっすぐに、純粋に、ハッピーで終わってこその物語じゃないですか。

だから私はこの映画が大好きですし、何度見ても心が震わされ、見る度に大号泣です。

こんな素晴らしい映画に出会えたことだけでも、私が生まれてきた意味はあったと思えるくらいに。

ラプンツェルを好きでいたおかげで、私は新しい世界に一歩踏み出す勇気が生まれ、新しい夢を叶えて行く楽しみを知り、たくさんの人と出会い、素晴らしい時間を過ごしました。

今、世界的な危機の中、ラプンツェルと同じ様に家の中に閉じ込められていると感じる人も多いと思います。

でもいつか、ラプンツェルのように、外の世界に踏み出す日が来ることを信じて、新しい夢を考えてみませんか? 

いつかその日が来た時に、胸を張って夢を叶えに行ける様に。

どうかこの映画が、これからも誰かの人生をより良く変える作品でありますように。

最後までお読みいただき、ありがとうございました! 

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