「わからない」を楽しむ
作品に散りばめられた5つのキーワードは、ディレクターやアーティストがその考えのソースにしただけでなく、展覧会に訪れた来館者も一緒に育てていこうと、ラクスは呼びかけている。
その思いが現れているのが、独自の作品解説パネルだ。そこには、作家・作品に関する説明のほかに、作家自身の言葉や参考資料からの引用、作品に対する詩的な解釈が記されている。
誰もが分かるような作品の見方は簡単に教えてくれない。しかし、ラクスはこの「わからない」状態を楽しんでほしいという。
謎めいた詩のような文章から、作品の言いたいことを想像し、連想を広げていく。来館者にそんな「独学」を楽しんでほしいというのがラクスの狙いのようだ。
横浜美術館館長で、横浜トリエンナーレ組織委員会副委員長を務める蔵屋美香は、次のように言う。
「自分で考え、光を発し、ひとをいたわり、共に生き、『毒』とともに共存する。まさにコロナ後の世界を生きる私たちにとって必要な知恵です。同展は、五感を働かせ、ふしぎを楽しみながら、ひとりひとりが新しい世界を生きるすべを見つけるための場所なのです」
「展示」&「エピソード配信」
もう一つのラクスの独自企画として、同展が「展示」と「エピソード」で構成されていることが挙げられる。
「エピソード」とは、展覧会から始まる前から始まり、終わった後まで続く、パフォーマンスやレクチャーのシリーズのこと。公式HP上で発信する形式をとり、参加アーティストたちが開幕前の準備期間に制作した「エピソードX」がすでに配信中だ。
今後もエピソード10まで随時展開していく予定で、ラストにはラクスによる企画が登場するという。
コロナ禍を経て、世界的な芸術祭の先陣を切って開催されたヨコハマトリエンナーレ。その取り組みについて、ラクスのメンバーのひとり、モニカ・ナルラはオンラインで参加した記者会見で、「世界に癒しを与え、世界に変革をもたらすアートの力を信じているということを、発信できていると強く自覚しています」語った。
「世界全体で燃え盛る炎がつぶされようとしている最中においても、私たちは異なる光の余韻、つまり残光(afterglow)の中で、さまざまな光を受けているのです。今後さらにもたらされるであろう素晴らし光を予感しながら、私たちは生き生きとした主体に満ちているのです」(モニカ・ナルラ)。
今こそ考えたいテーマがギッシリと詰まっている同展。「わからない」を楽しみつつ、現代アートを通して光の破片をつかみとってみてほしい。
【開催情報】
『ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」 』
7月17日(金)〜10月11日(日)まで横浜美術館、プロット48にて開催