列に並ぶ時間を「待っている」から「一息つく」余裕へ変えたかった

上田 今回コアに置いたテーマは何だったのか、改めて聞いてもいいですか?

山田 やっぱり「この場所に人が並ぶ」、というところじゃないですか。

僕もライブとかよく行くんですけど、並ぶのってやっぱ、あんまりいい気はしないですよね。

イライラする気持ちを抑えながら、ワクワクする気持ちを選んでいくみたいな感じだと思うんですけど。

それをけ自分でバイアスかけてワクワクする気持ちに持っていくのはストレスかもしれないと思って、そこのバイアスを作品で削るようなものになればいいなぁと。

なので、アニメーションの中でどれだけふざけられるか、というのをやったんですね。「そんなに真面目に自分の好きなアーティストを待たなくていいんだ」というか。

わかります?(笑)

上田 あの空想にふける男の人から始まって、ふざけた世界が始まるという。なるほど、あの男性は待っているんですね。

山田 「待ってる時間を、なんか自然に受け入れられるんじゃない?」みたいな、そういう自分の経験にも基づいているんですけど。

時計を見ていたり、歩いてみたり、それを8本の柱にはめていって、8本が同じ動きをしているわけではなくて、柱と柱の間のところに想像する余裕を生みたいなと。

── 完成された作品をご覧になっていかがでしたか?

山田 まず、色がすごく綺麗に出ていて。音も良くて。

上田 思った通りに出てましたか? この状況下で何度も現場に足を運べたわけではありませんでしたが、作品の完成形というか、想像してたのと、実際に体験したのと。

山田 出ていました。音楽を担当してくださった、クチロロの三浦さんに、真面目っぽかったりカッコいい感じにはしたくないと伝えていたのですが、分かってくださって。

口笛とかやまびこみたいな音がすごくアクセントになっていて。

上田 吐息もありますよね。

山田 あれは僕の声が採用されています(笑)。

あの「はぁ〜」みたいなのとかって、ぴあアリーナMMの様なワクワクする場所では聞かないような声だとは思うんですけど、「いったんここで呼吸を置こうよ」みたいな、深呼吸の様な呼吸をイメージしています。

上田 素敵なゆるさですよね。気持ちとして、気張って見なくていい感じになってるっていうのは、体験としてとても面白かったです。

山田 それは意識しました。最後まで、観なくてもいいというか。

どこから見てもいいし、別にずっと見なくてもいいし、みたいな。彫刻とか、ホテルの絵画とかは、たぶんそういうものじゃないですか。

意識して見るものじゃないけど、そこにあることでその空間をちゃんと包み込んでくれるみたいな、空間を定義づけてくれるものだと思うんですよね。

なので、押し付けがましいものになるのはよくないなぁと思ったんですよね。難しい感じになっちゃうのは嫌だなと思ったんです。

「映像はアートなのか?」デジタルサイネージは社会貢献になり得る

山田 デジタルアート、デジタルサイネージって、結構最近出てきた言葉じゃないですか。「映像はアートなのか?」みたいな話は、けっこう仲間内でもよくするんですよ。

上田 その話すごく聞きたかったんです。

山田 僕もよく分からないんですけど(笑)、まず価値をどうやって決めるのかが必要ですよね。

それには文脈が必要なんですけど、映像の文脈がまず100年ないので、どうしてもエンターテインメントの方向に行ってしまうみたいなことがあって。エンターテインメントのほうに行くと、やっぱり視聴者がいて成り立つものじゃないですか。

だから、果たして映像は、今までの価値観で言うとアートって言うのかなっていうのがあって。

映像ってエンターテインメントとアートの間らへんにあるのかなぁといつも思うんですけど。だから今回の様に「自由にやってください」と言われて、アート的な表現をするのは一つの実験の様にも思えました。

上田 映像作品って、世間の認識として、それそのものがアートとして販売されるということは多くないですよね。

今回の山田さんの作品も、1個形として「16:9」以外の媒体として離れたときに、アート作品として成立するのってどうなんだろうみたいな感じはしていて。

どうやったら売れるんだろうか、映像って、みたいな。

データじゃないですか、今の映像って。

フィルム自体が売れるのはなんかわかるんですけど、映像っていうのは、もうデータとしてコピーしうるものじゃないですか。

それをどうやって売っていくんだろうとなったときに、その映像の持っている付加価値なんだろうなぁと思っていて。

それこそフレーミングで、あの柱込みでセットだったりとか、映像がそこでしか見れないみたいなような空間としてのセットだったりとか、そういう体験というか、今までにない新しさ込みなんだろうなぁみたいなものはありますし、一方で、じゃあそれがアートなのかみたいなのは、ちょっと難しいですけどね(笑)。

今回アート作品ということで出したけど、そのへんにかなり課題を感じていたということですよね、山田さんが。

山田 そうですね。話を聞いていてそういえばと思ったんですけど、公共空間にそういう新しいセットを組んでやっていくというのは、けっこう社会貢献の一環だと思うんですよね。

こうしてぴあアリーナMMみたいな建物だったり、都市みたいなところにどんどん置かれていくというのは、アートが時代に合ったかたちに変わっていくことだと思うんですよね。

上田 日本においてアニメーションをアートとしてやっていくって、けっこうハードルがあると思うのですが、そういうところのアウトプット先で「Motion Corridor」の様な場所が増えていくといいなぁとは思っています。

これが山田さんに今回お願いした理由でもあるんですけど、海外と比べてアニメーション作家と呼ばれる人が少ない中で、今回の作品が多くの人の目に止まって、若手アーティストたちの目標になっていったらいいなと。

山田 いやぁ、恐れ多いですね(笑)。横浜市が若手のアニメーション作家を支援するコンペティションみたいなのをやっているのですが、こういうデジタルサイネージを使ったコンペティションとかがあってもおもしろいですよね。

ぴあも『PFF』というコンペティションやっているじゃないですか。

映画館以外のそういう場所が存在して、もっと門戸が開かれているっていうのはあったほうがいいだろうなぁとは思いますね。

横浜はたぶんそういう都市じゃないですか。もっと活性化されるといいだろうなというのはあって。

上田 歴史が短いからこそ、フォーマットにとらわれずに自由な作品をいろいろ募集していける場になったらいいなとは思いますね。