歴史学者の親に影響。山田遼志の発想の根源とは?

上田 今回もそうですが山田さんの作品って、現実には存在しないストーリーで、次のフレームが読めないんですよね。

でもストーリーにはなっている。

頭の中がどうなってるのかなって思うんですよね(笑)。

山田 自分でもシュールだなぁとは思います。どうなってるんですかね? どうなってるんだろう(笑)。

シュールレアリスムが出てきたのが1920年代ぐらいから30年代、そこから止まってるんですよ、僕の頭って。

スチームパンク的な考え方だと思うんですけど、あれって「もし世界に電気がなかったら」みたいな発想じゃないですか。

「もし写真がなかったら」と考えると、たぶん写真のような絵をずっと描き続けて、ピカソみたいなのは生まれないみたいな話にもなったりもするんですよ。

マルセル・デュシャンとかは『階段』というアニメーション的な絵画を描いていて、それがアニメーションの原点のひとつという説にもつながって。

ただ、その場合、そもそも写真がなかったらフィルムがないから、アニメーションにならないんですけどね(笑)。

そのへんの1900年代の前後らへんで頭が止まっていて、あと、歴史の背景ですよね。第一次世界大戦とか二次大戦のところとか、大戦後のヨーロッパの世界観みたいなところにずっととらわれていたところがあって。

上田 面白いですね、その発想というか考え方の根源はどこから?

山田 親がまず歴史学者っていうのがあって。

なので、僕が小さい頃から、中世の戦争の理由みたいなテーマで論争しているのをよく見ていて。

例えば夕飯に餃子が出てきたら、餃子にまつわる歴史的な背景を聞くんです。

「フビライ・ハーンがヨーロッパまで行ったから、ヨーロッパにも餃子あるんだけど知らないの?」みたいな。

上田 すごい家庭環境(笑)。

山田 昔って写真がないから伝える手段が絵画だったじゃないですか。

だから親が絵画にも結構詳しくて、一人っ子だったというのもあって絵を描いている時間も多くて。

そこからサッカー部にいきなり行くんですけど、高校三年生くらいで「やっぱり美術やろう」って。

それまでは絵を書いていることは隠していたんですよ。

「男はこう、女はこう」みたいな考え方に染まってたので、「絵を描く」とか「美術をやる」っていうのは大きく女性のもので、男性は外に出て行ってもっといろいろ快活にやっていこうみたいなのにけっこう縛られてたんですけど、それがくだらないなと気づいてやめました。

多摩美術大学のグラフィックデザイン科に進み、世界中のいろんなアニメーション作品を授業で見させてもらってショックを受けました。大学院では映画文法を一から教えてもらったり。

会社では『AKIRA』の制作スタッフの方がいたり小さいころ見てたアニメCMのアニメーターの方がいっぱいいたりして、技術の高さや経験の豊富さに圧倒されました。

あとは、母親は東ヨーロッパのほうとかロシアのことに詳しかったので、そっちの方のアニメーションはよく見ていました。

本当はでも、画家になりたかったですけどね。多摩美生や芸大生の油絵を見て「無理無理無理!」みたいな(笑)。

「こんなに上手い人いるんだ」と思ってやめて、じゃあいっぱい描くか!と。

上田 アニメーションで表現するのも、それはそれで難しくてかなり茨の道だとは思うのですけどね。

それを実現されていて素晴らしいです。

山田 本当は画家になりたかったからこそ、絵画とどう匹敵できるような作品を作れるか、というのは考えます。

美術館で、すごい絵画の前では1〜2時間もう動けなくなったりもするし、逆にぜんぜん琴線に引っ掛からなかったらスッと通りすぎるじゃないですか。

でも、映像って始めから終わりまで見ないとわかんないから、そこでの責任感みたいなのはいつも思いますね。

「やっぱちゃんとやんなきゃな」みたいな。

大勢の人が訪れる、通りがかるこの場所で何かを考えるきっかけに

── 今回の制作を経て、今後の山田さんの作品作りに活かされそうなことはありましたか?

山田 改めて、パブリックな場所に映像を置く意味みたいな事を考えるきっかけになりましたし、映像におけるアートの位置づけみたいなのとか、そういうめんどくさいことを(笑)、考えるきっかけになりました。

あとは、今回の様なプロットの作風は長いこと封印していたので、ここをまたチャレンジ出来たので、もう1回こっちを掘っていこうかなというのは思っているんですよね。

今回みたいなシュールな方向というか、もっとやっちゃっていいのかなぁ、まだやれる事あるなあと思って。

でも、本当今回やりたいだけやれたので、どうもありがとうございます。

上田 良かったです(笑)。

平野 山田さんの作品を見て「一息ついてほしい」みたいな部分は、確かにそうだなと思いました。

上田さんも言ってたんですけれども、肩肘張らずに触れられるアート作品というのがとても魅力的だと思います。

僕自身、普段エンターテインメントを仕事にしているので、なかなかアートというものとちゃんと向き合うタイミングってないんですけれども、今後エンターテインメントを目的に来たお客さんも、アートの入り口としてすごく触れやすいのかなって。

「Motion Corridor」という場所に合ったすごくいい作品を作ってもらい、また山田さんに「やりたいだけやれた」と言ってもらえたのは、本当に嬉しいです。

「ぴあアリーナMM」の体験型コンテンツの企画を担当したぴあの平野淳

山田 あぁ、よかったです(笑)。

平野 今後イベントが始まると1万人規模の人が来たり、また公演がない日にも2階のカフェを訪れる人がいたりと、日によって人の流れが大きく変化します。

「Motion Corridor」が訪れた人たちに色々なことを感じてもらえるきっかけになると嬉しいです。

最後に3Fラウンジ「CLUB 38」にある雑誌表紙風フォトスポットで!

山田遼志/RYOJI YAMADA
アニメーション作家、アーティストとして活動。文化庁新進芸術家海外派遣研修員としてドイツに留学。手書きのシュールな世界観のアニメーションは国内外で高い評価を得ている。

上田昌輝 / Masaki Ueda 映像ディレクター
1993年生まれ、Bascule inc.所属。MVや広告映像のディレクションから、インタラクティブコンテンツ制作まで、映像領域をデザイン。映像作家100人2019選出。2019年、野外フェス「岩壁音楽祭」立ち上げ、音楽領域でも活動中。

平野 淳 / Jun Hirano ぴあ株式会社 共創マーケティング室 分析ユニット 兼 アリーナ事業創造部 企画ユニット 兼 戦略企画室
2014年ぴあ株式会社入社。チケット販売サイト「チケットぴあ」の新規サービス企画・開発や、音楽イベントのチケット仕入営業を担当。現在は、横浜・みなとみらいに新設された音楽アリーナ「ぴあアリーナMM」の体験型コンテンツの企画を担いながら、顧客分析や新規事業企画などに携わる。

「ぴあアリーナMM」モーションコリドー
デジタルサイネージ放映時間:11:00~20:00 ※7/1(水)~当面の間
アートインスタレーション放映時間:毎時00分、30分~
※ぴあアリーナMMでの公演の有無に関わらず放映されます。
※放映スケジュールは急遽変更となる場合がございます。