千円でべろべーろになれるせんべろ酒場。
今宵、やってきたのは池袋のせんべろ的ランドマーク、その名も「大都会」だ。
24時間営業。年中無休。
まさに眠らない街、ブクロの酔いどれスポットである。
丼ものもあれば蕎麦も刺身もある。
店内の自販機で食券を買ってバンダナのおっちゃん店員に渡せば、席まで運んでくれるというシステムだ。
刺身などはあらかじめ小皿に盛られているが、揚げ物や一番人気というピザなどは、注文してから調理されて登場する。
さて。私は根っからのビール党だ。
こちらの一番素晴らしいメニューは「生ビールセット千円」。
生ビールに刺身(本日は超分厚いタコ刺し)とひじきなどの小鉢がついて、
千円ぽっきりなんである。
しかし私が激しく胸を打たれるのは、このビールが発泡酒ではなく、
「キリン一番絞り」であること。
しかもグラスビールなんてしょぼいもんじゃなくて、きっちり中生なのだ。
どう考えても原価ぎりぎり。
店主の崖っぷちの覚悟が感じられる。しかもかけそばはオールタイム100円など、
この数年、行くたびに度肝を抜く価格破壊に挑み続ける猛者。
だいじょうぶですかー!
かくして、本日も日本酒セットと生ビールセットを連れと飲みながら、
長居を決め込む私である。
こちらに集うお客は基本的に皆長っ尻だ。
立ち飲み価格にして、着席なのがますますよくない。
「んじゃ、ラスト一杯」などと言い合いながら、
自販機に代表者がずるずると千円札を滑り込ませる。
したがって、自動的に様々なよっぱらいドラマが店内で繰り広げられる。
ある時は、飲み会帰りとおぼしきぐでんぐでんの一人飲みのOLがカウンターに突っ伏していると、
サラリーマンらしき男が隣にさりげなく座り、「どした? 今日なんかあった?」などと、
欧米のアイリッシュパブ並の気さくさで声をかける。
そこをまったく空気を読まないバンダナのおっちゃんが、
「はいよ、唐揚げー」などと割って入る。
学食のおばちゃんさながらのマイペースがチャームポイントだ。
なんてことを連れと話していると、カウンター席から今日もドラマの予感が。
「だーかーら、二万円なの」という妙齢の女性の声。
「二万なんてそんなふざけた話があるか、ばあろう」と隣の白髪まじりのおじさん。
「だってえ、うちら嫌い合ってわかれたんじゃないんらもん」
両者ろれつがまわっていないこともあって話が読めぬが、どうも二万とは慰謝料的な何からしい。
ずいぶんと破格だ。
間もなく、女のほうがしくしくと泣き出した。
その瞬間、背後のテーブル席に座っていた一群が立ち上がり、
「はいはい。こっち来てまあ飲みなよ、落ち着いて」と彼女を招き入れた…。
え、何。
てっきり男女関係の相談で会社の上司にでも相談を持ちかけているのかと思っていたら、グループ飲みだったらしい。
しかも、どうも彼女の彼氏(元彼? 元夫!?)らしき人が肩を抱き慰め始める。
面白くないのは一人ぽっちでカウンターに残されたおじさんだ。
「はなしあんだろ、はなせばいいらろ、ばーろーが!」と意味不明に吠えている。
木目のつい立越しに、ワクワクしながら様子を見守る私と連れ。
腕をつかみ合い、あわや…バトルか! と思った瞬間、
バンダナのおっちゃんが、その間をぬって我々の席に元気よく
ビールジョッキを片手に運んできた。
「あ、間違えちゃった。日本酒だっけかね。まいいや、サービスね」
と嬉しそうに耳打ちする。
ついでに今日のオススメを念のため聞いてみる。
「ピザよ、ピザ。ピザが人気」
いつ行ってもいつ聞いても必ず薦められるピザ。
これが半端ないボリュームで登場するので、本日もあっさり聞き流してトマトサラダとマグロ刺しを追加し、さらにビールのジョッキを空ける。
その間、つい立越しに見ていると主役の女性は「私、もう帰る」と店を飛び出して行ってしまった。
それを断続的に追う男性数名。
そして断続的にさわやかに戻ってくるオールメンバー。
どうもお約束の展開らしい。
こうして我々がビールを追加する頃、お隣グループは何事もなかったかのように
ワハハハと皆で和やかな笑い声を上げていた。
何はともあれ二万円で落ち着いたか。
「大都会」なら二十回来られるお小遣いだ。
<今夜のお勘定>
生三杯券(刺身と小鉢付き)1000円
日本酒セット(徳利2本とグラスビールと刺身付き)1000円
まぐろ刺身330円
トマトサラダ250円
二人で合計2580円
【店舗情報】
池袋「大都会」
住所:東京都豊島区西池袋1-29-1
24時間営業
年中無休