「トミ!」と呼びかけて冨永のどっしりとしたビートを呼び起こすと、緑色のライトが美しく光るなか鳴らされたのは“武蔵野”。大陸的というか関東平野的なビッグサウンドを背に、宮本はさっきまでとは打って変わって澄んだ目でまっすぐ前を見つめながら歌う。「確かに生きている」── こんな言葉だって、きっと今だからこそ響く意味があるのだろう。そしてさらにパワフルに響き渡った“パワー・イン・ザ・ワールド“。これまた、ライブでは久しぶりの披露だ。長い間奏部をメンバー同士アイコンタクトを交わしながら鳴らし切ると、鬼の形相の宮本は叫ぶ。「これは冗談じゃねえ 戦いの歌だ」。拳を握りしめ、声を絞り出す。なるほど。ここまで13曲、そろそろ時間的にも中盤戦といっていい頃合いだが、ようやくわかってきた。この日の野音、彼らはエレカシのためでも、ファンのためだけでもなく、世界のためにロックを鳴らしている。ストロングスタイルで「今」と戦っているのだ。シャツがはだけすぎてほとんど裸ジャケット状態の宮本の凛とした目は、ファイティングポーズなのである。
ここからは“悲しみの果て”から代表曲を連発。再びジャケットを脱ぎ去った宮本がハンドマイクでステージ狭しと歩きまわりながら身を捩らせて歌う“RAINBOW”では点滅するストロボがスリリングなムードを描き出し、激しく身体を下りながら音をかき鳴らすメンバーの気合いも伝わってきた。そして一呼吸置いて“ガストロンジャー”に突入だ。高々と掲げた拳に応えて、客席でも次々と腕が上がる。パイプ椅子の上に立ち、「エヴリバディ! いい顔してるぜ!」。渾身のスキャットを決めると「いくぜエヴリバディ、胸を張ってさ!」。いつになくポジティブに響く“ガストロンジャー”であった。
ライブの最初に戻ったかのように真っ白な光が後光のように降り注いだ“ズレてる方がいい”では歌いながら佐々木に寄り添い、石森を無理やりベースのほうに連れていき、「サンキューエヴリバディ!」という一言から、ついに鳴らされた“俺たちの明日”へ。優しく温かなエレファントカシマシの歌が宵闇の野音を包んでいく。客席から起きる手拍子、そして、大合唱はできないけれども、ひとりひとりから注がれる視線。客席とステージがぐっと近づいたような感触を覚える。「さあ がんばろうぜ!」───安っぽい話にしたいわけではないのだが、どうしたって今ここでエレファントカシマシがこの曲を歌う意味合いを考えてしまう。配信を通して会場には来れないファンにも届いているこのライブ。エレカシがこの状況下で野音を敢行する理由が、じんわりと伝わってくる。
ここで第一部終了、しばらくして始まった第二部は、宮本のフレッシュなカウントから “ハナウタ〜遠い昔からの物語〜”で始まった。温かなメロディと歌詞がとても心地よい。宮本も身体を揺らしながら気持ちよさそうに歌っている。そしてアコースティックギターをぽろぽろと弾きながら歌い出したのは“今宵の月のように”。毎度のことだが、夜の野音にこれほど似合う曲もない。2番ではハンドマイクで、ステージの前方を歩きながら歌い上げる宮本。ジャキジャキと力強く刻まれるコードとエイトビートを軽やかに乗りこなすバンドのサウンドもすばらしい。
と、ここでなぜかいきなりブーツを履き替える宮本。ヒールの高さが違うらしく、4cmのほうが足が長く見えるが、3cmのほうが歩きやすい、とか言っている(今……?)。メンバー紹介を経て“友達がいるのさ“。ソロライブでも披露されていた曲だが、やはりエレカシで聴くとぐっと来る。「もう一度歩きだそうぜエヴリバディ!」「一緒に、ドーンと行けー!」。文字通りエールを客席(と画面越し)に送りながら、笑顔を見せる。そしてライブはいよいよクライマックスへ。タイトなリフとリズムが急き立てるように走る“かけだす男”。髪を振り乱しながらハイハットを乱打する冨永、楽曲をドライブさせる高緑のベース、汗まみれの石森が鳴らすソロも炸裂し、一気にステージ上の熱が上がっていく。続く“so many people”ではガツンと明るいロックアンサンブルが弾け、6人全員で塊のようなグルーヴが生み出していくのだ。