ソウルは西洋風に洗練された都市であると同時に、アジアらしい市場や露天商も健在で、人の匂いを失っていない稀有な街だ。しかし、ソウルの魅力はそれだけではない。
旧市街(北部)の中心部から20分も歩けば、澄んだ空気のなかでちょっとした山歩きを楽しむことができ、さらに旧市街と新市街(南部)の間には漢江(ハンガン)という大河が流れていて、心地よい川風を浴びることができる。
今回は、新しいソウルを知るために取材したもののなかから、旅の疲れを癒し、安らぎと涼を感じられるヒーリングスポットと、身体を内側からきれいにしてくれそうなヘルシーごはんを紹介しよう。
北村エリアからちょっと足をのばし、緑のパワースポットへ
反り返った屋根が印象的な伝統家屋が連なる街として、今やソウルの顔といえる北村(プッチョン)をさらに北上すると、勾配の急な登り坂が増え、緑が深くなり、そこがもう山の一部であることを実感する。
この辺りに吉祥寺(キルサンサ)という日本人にはなじみのある名前の寺があることは知っていたが、今回初めて境内を歩いた。
この寺の成り立ちはドラマそのものだ。裕福な家に生まれたが、家が没落したため妓生(キーセン)になった金英韓(キム・ヨンハン)。彼女はのちに料亭の主人となり、やがて政治家の会食に使われるまでに店を拡大したが、法頂和尚の言葉「無所有=所有することは何かに束縛されること。捨てることで心が安らかになる」に感銘を受け、料亭の敷地と建物をお寺にしてほしいと和尚に願い出て、1997年に開山となった。
難しい歴史逸話はともかく、ここに来れば誰もが“場のエネルギー”を感じるのではないだろうか。俗に言う“パワースポット”だ。この季節の境内はまさに緑のオアシスとなり、信仰とは無縁の筆者でも何かに守られているような心地よさを感じる。
境内には、異なる宗教どうしの和合を願ってカトリック信者が製作した観音菩薩像が祭られているため、修道服姿の女性参拝客の姿も見られる。
緑一色の境内を僧侶が歩く姿はまさに一幅の絵のよう。後ろから失敬だとは思いながら、夢中でシャッターを押してしまった。
吉祥寺(キルサンサ)
城北区城北洞323 ℡:02-3672-5945
都心から徒歩20分のオアシス、渓谷ウォーキング
北村の西側に位置するのが西村(ソチョン)という住宅街。油トッポッキや弁当カフェで話題となった通仁市場(トンインシジャン)の西側出口から一番近くに見える山の方角に10分ほど歩くと、緑色のマウルバス(住宅街を巡回する乗り合いバス)が何台も停車しているのが見える。
そこが仁王山の登山口、水聲洞(スソンドン)渓谷の入口だ。
水音と鳥の声、青い空と木々の緑、清々しい風……。ついさっきまでクルマの音や市場の喧騒のなかにいたのが噓のよう。いきなり地方の街にトリップしたかのような錯覚にとらわれる。ここでは、舗装されている登山道を10分ほど歩くだけでもリフレッシュできる。
食べ物の美味しい韓国で、前の晩ついつい食べ過ぎた、飲み過ぎた。そんなときはこの散歩コースがおすすめだ。
美味しい! 精進料理
吉祥寺で仏心(ほとけごころ)がついたわけではないが、お寺や軽登山でリフレッシュしたら、その余韻に浸りながら食事をしたくなる。
北村や西村から還俗し、仁寺洞(インサドン)のほうに歩くと、韓国最大の寺院・曹渓寺(チョゲサ)があり、通りを隔てた向かいには、俗人でも精進料理が味わえる「バルウコンヤン」がある。
精進料理は韓国や日本で何度か食べたことがあるが、韓国人には淡白過ぎて、正直、味についてはコメントしづらいものがあった。修行者の食べるものはきっと美味しくてはいけないのだろう。執着の心が生まれるから。そんなふうに思っていた。
しかし、この施設の食べ物は違った。
禪食(ソンシク)と名付けられたコース料理でいただいたのは、トマトの覆盆子(ポップンジャ=山イチゴの一種)酵素漬けから始まり、ヨモギ豆腐と水キムチ、ナムル各種、緑豆の寒天風、肉を思わせるキノコのコチュジャン揚げ、クチナシで炊いたごはん(サフランライス風)、テンジャンチゲ(味噌汁)、シッケ(もち米と麦芽の飲料)とヨモギもちのデザートなど。
禁忌に当たるニンニクやニラは使っていないし、塩も唐辛子も控えめだが、コース料理の流れに味のアクセントがあり、最後まであきずに食べることができる。
なかでも旬のナムル5種は、控えめな味付けが山菜の力強い香りとさわやかな苦さを際立たせ、まるで山の気をいただいているような気持ちになった。
バルウコンヤン(鉢盂供養)
鍾路区堅志洞71 テンプルステイ情報センター5階 ℡:02-733-2081
11:30~15:00 18:00~21:30 日曜休