お金のトラブルと消費者教育の必要性
高等学校学習指導要領解説(家庭編)39ページ『消費行動と意思決定』の項目の中には
『消費者の権利と責任を自覚して行動できるよう消費生活の現状と課題、消費行動における意思決定や契約の重要性、消費者保護の仕組みについて理解するとともに、生活情報を適切に収集・整理できること』出典(高等学校学習指導要領解説(家庭編)39ページ『消費行動と意思決定』)
との記載があります。
将来、子どもがお金のトラブルに巻き込まれない為には、消費者としての自覚を持ち、消費者保護の仕組みに関心を持つことが大切です。
未成年の間は、未成年であるというだけの理由で取り消しができる『未成年者取消権』に守られていましたが、成人になると、自分ひとりで自由に契約ができるようになります。
しかし、成人したばかりの頃はお金の知識や経験が少なく、安易に契約を結んでしまう傾向があるため、契約の前に慎重に、よく考えることが肝心です。
新成人がターゲットにされ、お金のトラブルになりがちな取引には、次のようなものがあります。
●デート商法・・・販売目的を隠して電話やメールで店舗などに呼び出し、高額の契約を迫る商法。
●スカウト商法・・・まれに本当にスカウトされて芸能人になった人もいますが、事務所登録料や受講料などの費用を請求されるケースも多いため、注意が必要です。
●マルチ商法・・・知人を紹介すればお金がもらえると勧誘し、商品やサービスを契約させ、加入者を増やす商法で、初期会員が儲かるしくみのため、勧誘した人とのトラブルになる可能性があります。
●キャッチセールス・・・路上でアンケートの協力などを呼びかけ、個人情報を提供させたり、商品を買わせようとするケースがあります。
近年、スマートフォンの普及により、SNSやインターネット通販によるトラブルが急増しています。最近は新型コロナウイルス感染症関連の助成金をうたう巧妙な詐欺サイトも多く、次々に新手の悪質な手法が出てきています。
ただ、いかに危険や誘惑が多いとはいえ、既に生活の一部となっているインターネットを活用しないわけにもいきません。
困ったときはひとりで悩まず、すぐに身近な大人や消費生活センターに相談するように、普段から子どもに声をかけ続けることが大切です。
買い物を通して学べること
筆者の長男は、今年のお正月にもらったお年玉で、キャスターボード(スケートボードの一種)をインターネット通販で購入しました。
父親とインターネットで様々な商品を検索して、初心者でも扱いやすそうなボードを選んだつもりでしたが、実際に使用してみると予想以上にキャスターの動きが悪く、すぐに破損してしまいました。
原則としてインターネットなどの通信販売は特定商取引法上のクーリング・オフ規定がないため、クーリング・オフはできませんが、『購入後2週間以内は返品可能』と販売店のウェブサイト上に記載されていたため、返品対応をしてもらうことができました。
そこで今回は返品処理を経験する良い機会だと考え、返品するボードを梱包し、販売会社に発送を依頼する手続きまで、父親と一緒に長男にもやってもらいました。
このひとつの買い物という経験を通して、決められた予算内で欲しい商品を選ぶことや、事前に商品の情報や評判などをよく調べてから購入すること、届いた商品はすぐに内容を確認し、欠陥商品だった場合は販売会社に連絡をして返品や交換が可能か確認することなど、消費者として知っておくべき様々なことを長男は学ぶことができたのです。
『子どもへのお金の教育』というと、少しハードルが高いイメージを持たれることがありますが、大人自身が消費者としての権利と責任を自覚して行動することで、普段の買い物を通して、子どもに消費者として知っておくべき知識や判断力をつけることができます。
日々多忙な子育て世代ですが、たまには子どもと一対一での買い物の機会をつくってみるのはいかがでしょうか。よく値段も確認せずに衝動的に選んでいたり、慎重にじっくり選んでいたりと、子どもの意外な一面が見られるかもしれません。
いずれにせよ、「自分でほしいものを選ぶ」「お金の使い方を自分で考える」という体験を積み重ねることで、お金の使い方は少しずつ上達し、賢い消費者としての眼が養われます。
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コロナ禍において、キャッシュレスが急速に進み、現金を触ったことがない子どもが増えていると聞きます。
あふれる情報や想定外の社会の変化におとなも振り回されることの多い現在だからこそ、お金についての疑問や悩みを、自身の失敗談も交えて日頃から親子で話してみましょう。
そうすることで、もしもお金のトラブルがあった時にでも子どもが親に相談しやすい信頼関係が築けるのではないかと考えています。
【執筆者】髙柳 万里
キッズ・マネー・ステーション認定講師/ファイナンシャルプランナー
金銭教育を受ける機会が全くないまま社会人となっていたことに愕然とし、必要に迫られて平成二十年にFP資格取得。「創意工夫と試行錯誤」をモットーに、主に親子向け金銭教育や教育費関連について執筆しています。