■ファンの言動が起こした問題
川原 正敏(著)
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熱い漢(おとこ)の生きざまに憧れるのは健全なファンだが、なかには冒頭の『黒子のバスケ』のように言動が行きすぎてしまい、作者や他のファンたちに影響を与えてしまうケースもある。
たった1通のファンレターが発端になった例といえば、人気格闘漫画『修羅の門』がある。トーナメント戦で試合中に主人公がライバル格闘家を殺害して優勝し、それを読んだファンの一人が作者へ「殺人者が一番強いなどと言わないで欲しい」と意見を送ってきたそうだ。
きちんと作品を読んでいれば、作者が“殺人拳”を肯定するわけではなく、むしろ常に否定的スタンスで描いていたことは理解できる。にも関わらずこんなファンレターが届いたことにショックを受けたのか、『修羅の門』は第五部から先が描かれなくなった。のちに作者がモチベーションを取り戻し、『修羅の門 第弐門』とタイトルを変えて連載再開するまで、実に14年間という歳月を要した。ただ、これはファンの側にも悪意があったわけではないだろう。作者とファンの両方が、あまりに真面目すぎたことが生んだ悲劇かもしれない。
これより過激なケースだと、アニメ化もされたラブコメ漫画『かんなぎ』をめぐる2008年の騒動がある。小柄でかわいいヒロインが作品人気を支える大きな要因だったのだが、あるエピソードで、そのヒロインが過去に主人公以外の男性と肉体関係をもっていた(とも解釈できる)シーンが描かれた。それに衝撃を受けた一部のファンが暴走。作者に対して心ない中傷を加えたり、『かんなぎ』の単行本をビリビリに破いた画像をネット上へアップするなどショッキングな行為に及んだ。
そして直後、同作は“作者急病により”無期限休載が発表。編集部が「今回の騒動と休載は無関係」と異例のコメントを出したが、当然さまざまな憶測を呼んだ。2年あまりの休養を経て連載復活したものの、あの時の騒動は記者もリアルタイムでウォッチしていただけに、胸糞悪さがいまだに拭えない。なお、後になって公表された休載理由の病名はクモ膜下出血。疲労や緊張、強いストレスが原因になることもあるという。
国外まで目を向けると、もっと恐ろしい、極めつけとも言えるケースが見つかった。漫画のキャラクターに対してファンが“殉死”した事件だ。これは2012年11月、海外のニュースサイト「Daily Mail」で報じられたもの。少年ジャンプ連載作『NARUTO』のアニメ版で某キャラクターが死亡し、それをテレビで見た十代のロシア人少年が自殺したという。編集部や原作者から公式コメントは出ていないようだが、ニュースを読んだ国内外の人々は皆ショックを受け、冥福を祈るコメントを寄せている。
漫画をどっぷり楽しむのは良いが、気に入らないからといって作者を傷つけたり、脅迫や自殺など異常な行為に及んだりするのは論外。フィクションと現実の区別をきっちりつけた“節度あるオタクライフ”を心がけてほしいものだ。