「総合的な探究の時間」になると何が変わる?

ーーしかし、そうなると2022年に「総合的な探究の時間」に変更されても、単に名前が変わっただけなのでは? という疑問も湧きます。

福井「はい、教育現場の先生たちの中にも、そういった疑問を持っている人はいます。

ただ、実は明確に変更された部分もあるのです。この『総合的な探究の時間』は、文部科学省によって、どのように学ぶかのガイドラインが明確に作られているんですね。

簡単にいえば、以下の4つのプロセスが明確に示されています。

  1. 課題を自分で設定する
  2. 課題についての情報収集をする
  3. 収集した情報を整理・分析する
  4. 整理・分析した情報をまとめる

これが文部科学省が示している“探究”です。『この要素が含まれていない授業や学習フレームはダメですよ』ということを暗に言っているんですね。

この『自分で課題を設定する』という部分が結構重要です。」

ーーここが一番の変更点、ということでしょうか?

福井「そうですね。ここで先に話した教育に関する時代の流れが生きてくるのですが、詰め込み教育の時代は、経済成長という明確な課題がありました。その課題に向かって、間違いなく、効率よく正解を導ける能力が必要でした。

対して、『総合的な学習の時間』が導入された時代は、価値観の多様化によってこれまでは明確だったはずの正解が、必ずしもひとつだけではなくなってしまったんです。

これまで最優先だった能力の価値が薄れて、答えのない、またはひとつではない課題に対しての答えを探す能力が求められるようになったわけです」

ーーそして、それらふたつの時代に対して今は……。

福井「もはや今は課題すら決まっていない、という時代になった、ということですね。

ただこれは、何も難しく考える必要はなくて。例えば総合学習の発表って『環境問題』『貧困問題』などのSDGsっぽいことが多いイメージがありませんか?

大人から見れば『おお、よく調べたね』となるのですが、じゃあこの問題が本当に自分自身にとって関係のある問題か? と問われると、子どもたちは疑問を感じると思うのですよね。

やはり、自分にとって身近で自分自身で見つけ出した課題でなければ、せっかく課題を解決していっても、それが継続的ではないんですよ。

例えば、小学校では郷土研究、中学校では職業研究、など、いかにもそれっぽい与えられた課題に対して解決を見つけても、それぞれの小学校ー中学校ー高校で取り組んでいる課題が分断されてしまって、次の課題に生かしていくことができないんです。

次々に興味を派生させて課題を見つけていくことができない、というイメージでしょうか」

ーーなるほど。せっかく総合的な学習を行っても、そうなるともったいないですね。

福井「そうですよね。この不確実性だらけので流動的な時代を生きていくためには、次々と社会の中にある課題や、さまざまなところに存在している価値を自分で見つけていく能力が必要なのだと思います。

だからこそ、今回変更された『総合的な探究の時間』でも、与えられた課題を解決することから、自ら課題を発見する方に重きを置く形になっているのではないでしょうか。」

総合学習にはパイオニアとなるモデル校がある!

ーー実際、この総合学習を積極的に取り入れて成功している学校、というのはあるのですか?

福井「はい。実は『総合的な学習の時間』ないし『総合的な探究の時間』には、モデル校があります。京都にある堀川高校という市立の高校です。

この堀川高校には『探究科』というコースがあって、ちょうど『総合的な学習の時間』が導入される1年前、1999年に設置されています。

京都は有名進学校も多くあり、この堀川高校はそれまではどこにでもある普通の高校でした。いわゆる抜群に学力の高い子が進学してくるような学校ではなかったのです。

しかし、この探究科一期生の国公立合格人数が100人を越えたんですね。これまでは数人だったにも関わらず」

ーー 一期生ですでにそんなに違いが出るものなのですか? 驚きです!

福井「はい、これはもちろん学力的成果もありますが、自分自身で課題を設定し、それに対して自分なりのアプローチで課題解決をしていく、という取り組みがさまざまな入試形式で評価された、という側面もありますね。

例えば、3年間学校で、自分の大好きなカタツムリの研究をしていたという子は、扱うデータのレベルもその課題に対する文章レベルも、ただ入試の勉強だけをやっていた子とは段違いです。

大学も、そういった子に来てもらってうちで研究してほしいと思いますよね。

こういった取り組みを全国各地の教育機関でやってほしい、というのが文部科学省の本音なのではないでしょうか」