「逢魔猫」のデザインを細部にまで彫り上げた作品も。猫の躍動感や、地面に映る影、背景の電線などがひとつのグラスに集約されている。

中を覗くと、その細かさがより実感できる。グラスの形状にあわせてわずかなズレも許されないため、緻密な技術と神経が必要とされる。

「逢魔猫」のデザインの完成形とも言えるものだろう。可夜さんによると「背景に電車を入れるかどうか迷いました(笑)」とのこと。

また、宙吹きと彫刻が合わさった類稀なる制法、グラールによる作品は、絶妙なコントロールが要求され、作成にはかなりの苦労があったとのこと。

「銀箔紅葉」がコンセプトの作品は、通常、紅葉と言えば秋の鮮やかな色を想像するが、こちらは銀色の紅葉である。冬の訪れを示唆するような、幻想的な雰囲気に仕上がっている。

面白いデザインといえば「小悪魔猫」。なんと猫に羽が生えているではないか。このデザインが生まれるきっかけになったのも、愛猫の雪ちゃん。

ある日、ハロウィンに使う「小悪魔」カチューシャを買ってきた可夜さんは、雪ちゃんに着けてもらおうと考えた。ただし人間用のカチューシャなので、雪ちゃんの頭には大きすぎる……。

ちょっと考えた末、背中の辺りに着けてもらうとこれがピッタリ。そしてその姿は、まるで羽が生えた猫のようだったのだ。振り向いたお顔がなんともキュートである。

この時の、あまりにも愛くるしい姿をモチーフに出来上がったデザイン。作品自体は急きょ制作に取り掛かったもので、出来上がったのは個展間近、まさにギリギリだったそうだ。そのため、このデザインを取り入れた作品は現在数個しか存在していない。

可夜さんが、自身で生み出した切子シリーズはまだまだある。「星の羅針盤(アストロラーベ)」 は古代の天体観測器具がモチーフになっている。

伝統柄においても、難度が高いとされる「菊繋ぎ」による「アストロラーベ/菊繋ぎ紋」。太い菊の部分と細い線の部分に分けることで、重なったところがより強調され、まるで星のように見える。可夜さん自身が考案した模様だ。

「逢魔猫/可夜硝切子」は、デザインはもちろん、宙吹き、彫刻、切子まで、全てが可夜さん自身の手で生み出された逢魔猫作品。光にかざすと、中がまるで星屑のように青く輝いてとても美しい。

ここまで紹介したものは、可夜作品のほんの一部に過ぎない。初めての個展でありながら、その作品のバリエーションには驚かされる。

可夜さんによると、今までは実際の写真をモチーフにしたリアルなシルエットをデザインに活かしていたが、今後はさらに幻想の世界観を取り入れていきたいとのこと。

例えば、という前置きはつくが、妖をテーマにした作品を色々作ってみたいとコメントしてくれた。グラール製法を活かして、かの「九尾の狐」が硝子に封印されたような「殺生石」といった作品イメージがすでに可夜さんの中にあるという。

今回の「逢魔猫」でもすでに猫又が登場しているように、可夜作品に多くの妖怪変化が登場する日が来るかもしれない。切子ファンや猫ファンのみならず、妖怪ファンにとっても可夜さんの活動は注目に値するだろう。

切子の新しい可能性を広げる可夜さんのガラス作品。手に取ってその存在感を実感してみて欲しい。

(取材/イベニア)

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