この20年間、映画・ドラマ・音楽などの韓国文化が大量に日本に流入するとともに、韓国の食べものも日本に普及、定着した。
しかし、隣の国とは言ってもやはり外国。日本人が好んで食べるものと、韓国人が好んで食べるものには違いがある。
そこで今回から数回に渡って、韓国人が日常的にどんなものを好んで、どんなふうに食べているか? そして、それにまつわる独特の情緒などについて書いていきたい。
第1回目は、それを漬ける作業がユネスコの世界無形文化遺産に登録されたキムチについて深堀りしていこう。
世界無形文化遺産に登録されたのはキムチではなくキムジャン(キムチ漬け)
キムチそのものでなく、キムチを漬ける文化「キムジャン」がユネスコの世界無形文化遺産に登録されたのは2013年のこと。
なぜキムチそのものではなくキムジャンという行為が登録されたのか、不思議に思う人も多いと思う。
かくいう私もそのひとりだったが、昨年からコロナ禍が世界を覆い、人と人との直のふれあいが制限されるようになると、あらためてキムジャンという文化が尊いものに思えてくる。
キムジャンはソウル育ちの私の周囲では80年代まで、毎年11月から12月にかけて行われていた越冬用のキムチ漬け作業のこと。
信じてもらえないかもしれないが、4人家族の私の家だけでも白菜200株分は漬けていた。
当時のキムチ漬けは、要点だけ言っても、白菜を塩漬けする→薬味を作る→薬味を白菜にもみこむ→地面を掘って埋めたキムチ甕に詰める、という大仕事だった。
当然、これだけの作業は私の母一人ではできない。市場で買った大量の白菜をリアカーで我が家まで運んだり、甕を埋めるために庭に穴を掘ったりするのは父の仕事だったが、それ以外の作業は近所のお母さん5~6人くらいの手を借りて行っていた。
つまりキムチは自分の家で食べる分だけ漬けるのではなく、町内全体で取り組むものだったのだ。かつて農村では村単位でキムジャンを行なっていたが、その名残である。