東京・上野の森美術館で開催中の「怖い絵」展は、TVやネットでも話題を呼び、1日約5,500人が訪れる人気の展覧会です。何が魅力かというと、まず「怖い絵」というタイトルとコンセプトではないでしょうか?
作家・ドイツ文学者の中野京子さんによるベストセラー『怖い絵』シリーズの刊行10周年を記念して開催された本展は、時間が経てば経つほど話題を呼び、現在は開館時間を毎日延長して開催されています。
まだ行かれていない方や、もう一度行きたい方のために、中野京子さんのお話と共に美術展の魅力をご紹介します。
大人気「怖い絵」展 現地レポート
上野の森美術館で開催中の「怖い絵」展を取材して来てくれと、編集部から突然連絡あり。
なんで私に美術展の取材を頼んだのかなと思いつつ、たぶんいつもお化け屋敷レポとかやってるから、そんな感じで頼まれたのかな…と思いつつやってきました~!!
この日は朝からザーザー雨が降っていて、こんなに降ってるなら人も少ないだろうと思ったけど、美術館前はもの凄い大・大・大行列!! 取材した当日は11月23日。勤労感謝の日ということで祝日だから余計に多いのかも。
普段はどちらかというと「科学博物館」派の私ですが、どんな“怖い絵”が見られるのか、行ってみたいと思います♪
6つのエリアで味わう、さまざまなタイプの「恐怖」
展示は6つのエリアに分かれ、<第1章:神話と聖書> <第2章:悪魔、地獄、怪物> <第3章:異界と幻視> <第4章:現実> <第5章:崇高の風景> <第6章:歴史>と、各エリアごとに異なる「恐怖」を感じることができます。
中に入ると更に大混雑。なかなか先に進みません。その理由は、展示された絵のひとつひとつにストーリーがあり、その絵の裏に隠された物語を読み解きながら進むからです。
みんなポカンと口を開けて絵を眺めては、中野さんの書いた解説について、連れ合いとヒソヒソと話す。
全部ご紹介しちゃうとネタバレしてしまうので、私が気になって足を止めた絵を紹介します。
まずは<第4章:現実>エリアに展示された『切り裂きジャックの寝室』という作品。
19世紀末にイギリスで起きた連続殺人事件の犯人とされる「切り裂きジャック」。海外で起きている殺人事件は切り裂きジャックの模倣犯も多く、今でもたまに話題となるため、みなさんも聞いたことがある名前ではないでしょうか?
『切り裂きジャックの寝室』を描いたのは、ウォルター・リチャード・シッカートという画家。
状況証拠を積み重ねた推理小説家のパトリシア・コーンウェルは、実は彼が「切り裂きジャック」の真犯人なのでは?と確信します。しかし、真相は闇の中のまま…。
そしてもうひとつは<第6章:歴史>の、この美術展のアイコンともなった『レディ・ジェーン・グレイの処刑』。
高さ2.5m×幅3mと、「怖い絵」展の中でも一番大きな絵です。
作品につけられたキャッチコピーは「どうして。」。
この絵の背景には、望んでもいない女王の座につかされ、わずか9日で引きずりおろされたあげく、16歳で斬首されるという悲劇的な物語があります。
透き通るような白い肌が彼女の美しさと若さを物語り、そのキャッチコピー同様「どうして。」とつぶやきたくなってしまいます。
この絵も含め、音声ガイドがあるともっとこの絵の奥深さを知ることができますので、ぜひガイドを利用されることをお勧めします。
なぜ人は恐怖に惹かれる? 中野京子さんインタビュー
それぞれいろいろな「怖さ」の解釈の仕方があるとは思いますが、今回の「怖い絵」展では、あからさまにグロテスクな絵はありませんでした。
展覧会を観に来る人たちは、いったいどんな「怖さ」を求めて来場するのでしょうか?
「恐怖」に魅了されるその心理や、「怖い絵」展の楽しみ方、開催にあたってのウラ話を、中野京子さんに伺いました。
「恐怖を知らないという人はいないですよね。なぜかというと、動物は恐怖を感じることで生き延びてこられたからです。恋愛を知らない人はいるかもしれないけど、恐怖を知らない人はいないでしょう。
人は誰でも必ずいつかは死ぬ生き物です。だからこそ、生きているうちに死を見てみたい、感じてみたい――人にはそんなふうに、怖いものや異常なものを安全なところから楽しみたいという欲求がある。そういう欲求の中に、人間の本質が表れるのではないかと。
表には出していなくても、多くの芸術家が色々な意味での恐怖を描いてきたのには、そういう理由があるのだと思います」
「ただ、この展覧会が単に怖がらせようとするものではないということは、絵を見ていただければわかると思います。この美しい絵のどこが怖いのだろう? そう疑問に思うところから、物語が立ち上がってくる。
見ていくうちに、これは怖い、これはあまり怖くない、と、恐怖の感じ方の違いがあると思います。今回の展示では、さまざまな“恐怖のバリエーション”をもたせました。
恐怖の深さや、なにに恐怖を感じるかは人によって違うでしょう。今回の展示の中で、必ずひとつは怖いと思える絵があるのではないかと思います」