大きなモノの源は小さなモノ
美しい魚を愛でる人は多い。ときには水族館で、ときには金魚鉢で、そしてときには自宅にアクアリウムを作り、魚を鑑賞する。
そんなアクアリウムの世界には、伝説と言われる男が存在した。「水景クリエイター世界のアマノ」と呼ばれた人物であり、自然の生態系を水槽の中に再現させた ネイチャーアクアリウム(水草水槽)の提唱者、天野尚(あまの たかし)である。
2015年8月に61歳で他界した天野氏にスポットを当てた「天野尚 NATURE AQUARIUM展」が、東京ドームシティのGallery AaMo(ギャラリー アーモ)で開催されている。『水景にすべてを捧げた男』、そんなサブタイトルがつけられた展示だ。
超細密な自然写真
会場に入ると、天野氏が愛用した大判カメラが展示されていた。とても大きなカメラであり、撮影にも相当の技量が必要になる。
天野氏は写真家としても有名であり、アマゾンなど、世界中の熱帯雨林をテーマにした写真を撮影していた。この巨大なカメラからは、天野氏の細部へのこだわりが感じられる。
天野氏が撮影していた8×20インチの超大判フィルム。富士フイルムによる特別生産であり、当時最新のカラーリバーサルフィルムは世界最大の大きさがあった。拡大してみると大きな写真にも関わらず、非常に細かいところまで写し込まれている。
展示の前半はそんな天野氏が撮影してきた「写真」が主役。天野氏にとって、写真を撮影するということは「自然を切り取る」という行為に他ならない。そしてネイチャーアクアリウムは「自然を構築する」という行為となる。まさに氏の制作活動の全てを知ることができる場なのだ。
2008年の洞爺湖サミットで展示された「金剛杉屹立」は、佐渡島の金剛杉を撮影したもの。超特大の写真パネルを間近で眺めると圧巻だ。写真でありながら緻密な絵画やCGのようで、その絵の世界に吸い込まれそうな気分になる。
森の中を飛んでいるような魚たち
後半はアクアリウム作品の写真や、実物のアクアリウム展示となる。まさに森の中で、木々の間を魚が飛び回っているような世界が創造されている。このアクアリウムが存在感を放っているのは、魚たちがいる空間も「生きている」からだろう。
泡となって水槽内に供給されているのは二酸化炭素。この二酸化炭素と水槽上部から照射される光によって、水槽の水草が光合成を行い酸素を供給してくれる。酸素を吸った魚たちもまた、二酸化炭素を水草に供給する。
アクアリウムの楽しみはその美しい情景を鑑賞すること。ただし、手入れを怠ると水槽内にコケが繁殖してきてしまう。このコケ対策として有効なのが、コケを食べてくれる生物達の存在だ。