専門家ではないからできた「怖い絵」展

第4章「現実」

「実は会場探しが大変でした。兵庫県立美術館はすんなりと決まったのですが、東京の美術館がなかなか決まらなくて。いくつかの美術館に話を持っていったのですが、あっさり断られてしまいました。

その理由のひとつに、私が美術畑の人間ではなかったということがあったと思います。『怖い絵』のコンセプトをいくら説明しても、怖いという言葉からきわもののように思われたのか、相手にされなかったのです。そういった事情もあって、本来は東京から始まるはずだったスケジュールが、兵庫からのスタートに変更になりました。

でも、この展覧会のかたちになったのは、私が美術の専門家でなかったことが大きいと思います。

もし専門家だったら、いきなり掛け算や割り算から入るところを、私は足し算や引き算からやったほうがよいだろうと思いました。まず足し算や引き算ができるようになって初めて、そこから先もよくわかるようになります」

館内

「書籍では一枚の絵に対して、短編小説程度の長さで説明しましたが、美術館でそれは無理です。しかしある程度の分量の解説がないとコンセプトが伝わりません。

はたして絵を見にいらした方が、これまでの美術館ではありえない長さの文章を読んでくださるものか、それが心配でしたが、それぞれの視点でそれぞれの気づきをもってくれたことがすごく嬉しかったです。

最初に絵を見る時に、『この絵はなにが怖いんだろう』と想像をする。そして絵を見て、考えて、解説を読んで、なるほどともう一度見てみる。ここにクリエイティブな楽しみがあります。

解説を読んで、また絵を見直して、自分が考えていたことと全然違っていたり、この画家がどんな効果を出そうとしてどんな工夫をしているか、というところまで見てしまう。そういったところも含めて、面白いと思ってもらえるのではないかと思います」

まとめ

いかがでしたか?

中野京子さんの解説がとても分かりやすく、初めて美術展へ行く方も絵の奥に隠された物語を読み解くことができます。会期は残りわずか。ぜひあなたも名画に隠された「恐怖」を味わってみては?

また、とても人気だったのがミュージアムショップです。中野さんの著書や図録の他に、ここでしか手に入らない特別なグッズも販売されていますので、ぜひ立ち寄ってみてください。

「怖い絵」展
東京会場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
■会期 2017年10月7日(土)~12月17日(日)※会期中無休
■開館時間 9:00~20:00 (入場は閉館の30分前まで)※好評につき開館時間延長中

フォトギャラリーどれも怖い…! 「怖い絵」展示絵画フォトギャラリー(11枚)
  • フランソワ=グザヴィエ・ファーブル 《スザンナと長老たち》 1791年 油彩・カンヴァス ファーブル美術館蔵 © Musée Fabre de Montpellier Méditerranée Métropole, France – Photographie Frédéric Jaulmes – Reproduction interdite sans autorisation
  • オーブリー・ビアズリー  ワイルド『サロメ』より《踊り手の褒美》 1894年 ラインブロック・紙 個人蔵
  • ウィリアム・ホガース  『ビール街とジン横丁』より《ジン横丁》  1750-51年 エッチング、エングレーヴィング・紙 郡山市立美術館蔵 © Koriyama City Museum of Art
  • ジャック=エドゥアール・ジャビオ 《メデューズ号の筏(テオドール・ジェリコー作品の模写)》 1854年 油彩・カンヴァス ボルドー美術館蔵 © Musée des Beaux-Arts, Ville de Bordeaux. Photo L. Gauthier
  • フレデリック=アンリ・ショパン 《ポンペイ最後の日》 1834-50年 油彩・カンヴァス プチ・パレ美術館蔵 © RMN-Grand Palais / Agence Bulloz / distributed by AMF

 フリーライター(たまにイラストレーター)として、雑誌やWebで執筆。現在はグルメ・旅の撮影や執筆、取材を中心にお仕事をしています。元飲食店オーナーだったこともあり、調理経験を生かして料理レシピやフードコーディネートも行っています。ブログ:『牡丹餅あんこのpoco a poco』