「役者同士で慣れ合って欲しくない」

「雨宮は黒蜥蜴に出会って、人生が劇的に変わったと思うんです。だから呪われたように黒蜥蜴についていこうとするし、そのために、“生き人形”を作ったり、彼女の美意識に近づこうとする。その呪われている感じや、黒蜥蜴のことを盲目的に愛している狂気のようなものを表現したいと考えています。クライマックスではその信じ続けてきたものがひっくり返るので、そのドラマがお客さんにも伝わるように演じたいと思っています」

この言葉はもちろん役柄を完璧に理解していることの表れだが、続けて次のコメントを聞くと、それがなんだか違うニュアンスを帯びてくる。もちろんそれは、筆者が演じ手と役柄を勝手に重ね合わせているだけのことなのだが……。

「黒蜥蜴の美意識と、美輪さんの美意識はすごく近い」と思う。

「美輪さんが現場を和やかなものにしてくださる一方、“役者同士で慣れ合って欲しくないので、打ち上げや飲み会は一切やりません”と最初の稽古のときに仰いました。それだけに稽古場ではみんな、美輪さんといちばん多く話していますし、稽古場がすでに美輪さんの空気になっている。それに黒蜥蜴の美意識と美輪さんの美意識はすごく近いというか、美輪さんはもう黒蜥蜴その人になっているんです。その姿を見ると、自分も早く雨宮にならなければいけないなと思いました」

なんて素直に、すくすくと役と芝居に向き合っているのだろう? そんな中島の一点の曇りもない純粋な眼差しを見ているうちに、ある考えに至った。

美輪明宏は自分の美意識やパフォーマンス、DNAを継承してくれる、それを託せる人物を探し求めていたのではないだろうか? そして選ばれたのが中島歩だったのではないか?

目の前では「公演は1ヶ月以上続きますけど、舞台上で起こる出来事は初めて起きる瞬間。 だから芝居が作業にならないように、新鮮な気持ちで、そのとき初めて起きたようにリアクションをして、喋らなくてはいけない。それが実行できるようにしたいです」と、中島歩が目を輝かせている

すべては幕が開いたときに明らかになる。美輪明宏と彼に選ばれた中島歩が舞台の上でどんな魅惑の化学反応を起こすのか? 中島歩は美輪のDNAを受け継いだ芝居を放出することができるのか? 黒蜥蜴と雨宮の宿命と愛憎のドラマが現実世界とリンクし、よりスリリングで、より濃密なものになるはずだ。

 

『黒蜥蜴』チケット情報はコチラ [https://ticket.pia.jp/pia/event.do?eventCd=1303769]
 

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。