変わりゆく明治期以降の「異性装」
明治時代、新政府は西欧化を推進するために様々な法改正を行った。現在の軽犯罪法にあたたる「違式詿違条例(いしきかいいじょうれい)」もそのひとつで、壁の落書きや他人の畑からの作物窃盗、男女混浴や公共の場の裸体露出など、多岐にわたる行動が禁止された。
異性装も歌舞伎役者や袴などの一部例外を除き刑罰の対象となり、同性愛や異性装は精神疾患とみなす当時の誤った西欧精神医学が日本に導入されたため、異性装を差別する動きが強固なものとなっていった。
第6章「近代における異性装」では、明治に入り変わりゆく異性装について取り上げる。落合芳幾《東京日々新聞 813号》は、妻が男性であることを知りつつ3年の間暮らしていた夫婦について取り上げている。妻は戸籍法の制定で、夫以外にも男性であることが露見。婚姻は強制的に無効とされ、丸髷であった妻はザンギリ頭に刈られてしまったという。
昇斎一景《東京名所三十六戯撰 隅田川白ひげ辺》は、違式詿違条例の前年に描かれた花見の宴会を楽しむ人々。画面の中央には女装をした芸人が歌を歌っている。翌年以降、宴席で異性装をした芸人が逮捕されたニュースが新聞を賑わせていたという。
しかしながら、芸能の世界では異性装は容認されていた。第7章「現代の異性装」では、男装の麗人として一斉を風靡したターキーこと水の江瀧子の資料や、現代舞踏の第一人者で老女の姿で踊った大野一雄のポスター、宝塚歌劇団に大きな影響を受けた手塚治虫『リボンの騎士』や、池田理代子『ベルサイユのばら』、江口寿史『ストップ!! ひばりくん』の原画のほか、異性装を趣味とする人々のための専門誌などを展示する。
そして、最終章となる第8章「現代から未来へと続く異性装」では、森村泰昌やダムタイプ《S/N》の記録映像のほか、"DIAMONDS ARE FOREVER"のメンバーによるインスタレーション《CQ!CQ!This is POST CAMP》が展示される。"DIAMONDS ARE FOREVER"はグロリアス(古橋悌二)、DJ Lala(山中透)、シモーヌ深雪らによる、日本最初期のドラァグクイーンによるエンターテイメントダンスパーティーだ。
異性装という言葉、そして概念は、「男」と「女」という性別の二項対立が現在もまだ残されているからこそ存在する。さまざまな異性装のあり方を通して、今後の「男」と「女」のあり方も考えさせてくれる、実りの多い展覧会だ。
開催情報
『装いの力―異性装の日本史』
会期:2022年9月3日(土)~2022年10月30日(日)
会場:渋谷区立松濤美術館
※会期中展示替あり