「アリバイ作り」に利用されて

「その日、夜になってA子から電話があり、出てみると『不倫相手の男性と一泊の旅行に出かけるから、私はあなたと一緒にいたことにしてもいい?』と頼まれました。

その日は私の部屋に泊まったことにしてほしい、がA子の要望で、『あなたは友達だし前も泊まったことがあるし、不自然じゃないよね?』と言うけれど、最初から私がうんと答えるのを当然にしているのが引っかかり、返事に困りました。

黙ったままの私に『ダメ?』とA子が尋ねてきて、『ダメというか……万が一バレたらどうするの?』と恐る恐る返したら、『私が実は不倫相手と旅行していましたって? そんなの、あなたは知らなかったで通せばいいじゃない』と即答で、そう上手くいくのだろうか、と不安な気持ちが湧きました。

女友達が不倫相手と出かける旅行のアリバイ作りに加担させられる、というのは、手放しで迎えるのは難しくて。

受け入れて当たり前と思われているのも気になり、『うーん、ごめんなさい、ほかに頼れる人はいない?』と答えたら、『こんなお願い、誰にでもできるわけないじゃない』とA子は不機嫌な声で返してきて、胸がぎゅっとなりましたね……。

『こんなことを頼んで申し訳ないとは思っているよ。でも、たった一泊だし県外だから誰かに見られることもないと思うし、何とかならない?』とA子が低い声で重ねて言ってきて、これ以上断る言葉が出てこなくなった私は仕方なく『わかった』と答えました。

A子は途端に『ありがとう!』と弾んだ声を返してきましたが、私のほうはA子との友情そのものが揺らいできたことをはっきりと感じていました」