自分のことしか考えない人

美智恵さんの友人は、それ以来市営のプールには足を向けていないそうです。

「元彼のしたことだけど私はやっぱり無関係ではないし、こんなことで行けなくなって、友達には本当に申し訳ないと思います。

元彼のことだから、友達が完全に無視したら二度と話しかけてこないだろうとは思うのですが、同じ空間にいるのも嫌ですよね……」

とうなだれる美智恵さんは、「どう見ても美智恵に未練があるよね。本当に忘れていたら、まず私にも話しかけてこないでしょ」と、肩をすくめていた友人を思い出していました。

「付き合っている頃から思っていましたが、本当に自分のことしか考えていないのだなと、そんなことをして自分がどう思われるかなんてまったく想像しないのだなと、真剣に怖くなりました」

別れて物理的な距離を取れてから、一層に元彼のおかしさを実感していたという美智恵さんは、平気で無関係な他人を巻き込む元彼の身勝手さに腹を立てています。

「友達は、『これもストーカーの一種だよね』と言っていました。

下手をすれば友達が付きまとわれていた可能性もあるし、こちらからすっぱりと関わりを断つしかないのだなと、悔しいですね」

たとえば美智恵さんから連絡を取って、その置いていった靴下とやらを取り返せば、元彼は接触する理由を失うので今後は安心とはいえます。

ですが、それが元彼の狙った通りの筋書きである可能性は高く、「自分からではなく元カノが自分に近付いてきた痕跡」を残したいのかもと思えば、何を言われても取り合わないのが、長い目で見れば最善です。

「元カノに関心を向けられる自分が見たい」、という依存心がなければその友人まで巻き込むことは考えつかないはずで、やはりここでも受け身でいたい下心が透けて見えます。

本当に元カノに未練がありそれが好意であれば、無関係な人を自分の事情に付き合わせるようなことは、かえって自分の評価を下げると気が付きます。

友達が市営プールに行かなくなり、それ以降元彼の動きもまったく感じられない状態が今は続いていますが、

「友達は話を中途半端なままで置いているし、それで元彼が怒ってまた何かすればどうしようかと、しばらくは怖かったです。

私にも友達にも何も起こってはいないですが、油断は禁物だと思っています」

と、警戒する気持ちを美智恵さんは捨てていません。

自分の身を守れるのは自分だけであり、異常な思考を持つ人間を信用することはできないのだと、改めて考えます。

未練を持つのは仕方ないとしても、それを当人に伝えるのではなく周囲の人間を一方的に巻き込むような状態を見れば、復縁なんて考えられないですよね。

自分のことしか考えない人は、結局は相手のことは見ておらず、自分の要求が満たされるかどうかだけが頭にあるといえます。

下手に関わるよりもいっさいを断つことが、自分のためなのですね。