総監督に樋口真嗣監督、シリーズ構成に岡田麿里さん、そして、制作はボンズという豪華制作陣が集結した春アニメの話題作『ひそねとまそたん』。
本作は軍用機に擬態化したドラゴンとパイロットたちの交流によるドラマを軸に、ファンタジックな要素とミリタリーのリアルな描写が絶妙に配分されたシナリオや、温かみのある独特のタッチで描かれたキャラクターデザイン、そして、アニメ全体を盛り上げる音楽でアニメファンの注目を集める本作。
いよいよ最終回を迎える『ひそねとまそたん』について、主題歌や劇伴を担当する作曲家の岩崎太整さんにお話をうかがいました。
樋口総監督や岡田さんの作り上げる作品を凛々しく見せたい
――今回の『ひそねとまそたん』では、オーケストラを活用した劇伴が物語の魅力をより一層引き立てています。今回の音作りに至った経緯を教えていただけますか?
岩崎:当初は、オーケストラを使いたいということでもなくて、全く何にも決まっていなかったんです。そもそもは、80年代の、シンセサイザーを使ったサウンドをやりたいと樋口総監督と話をしていました。
ですが、企画が進むに連れて、脚本や樋口さんのイメージと音楽を摺り合せていった時に、「どうも、その音では違うな」と。まだ、岡田さんのシナリオも1話か2話しか見ていない段階だったのですが、「この作品のドラマならば、真っ向勝負した音楽の方が良いんじゃないか」と思いまして、(当初のシンセサイザーによる音作りを)全部捨てて、僕が勝手にやっちゃったんです。
――オーケストラによる音の重厚さや深みの方がドラマに合っていると思われたということですか?
岩崎:そうですね。オーケストラの凛々しさであるとか、そういった音を大事にしたいな、と。何かのオマージュとかではなく、樋口総監督と岡田さんが単独で作り上げる作品ということで、もうちょっと音で凛々しく見せたいなという思いがありました。
オーケストラというのは古くも新しくもないのですが、『ひそねとまそたん』も突飛な設定を用いつつも、ドラマとしては普遍性がある作品なので、この音作りが合っているんじゃないかな、と。
――劇伴には、雅楽の要素もありますが、これは作品の伝奇的なシナリオに合わせた部分があるのでしょうか?
岩崎:そうです。エピソードが進むに連れて、最初はオーケストラをはじめとした洋楽器から始まって、最後に行くにつれて和楽器主体の音へとスライドしていくように作ってあるんですね。
ですから、途中で洋楽器と和楽器がミックスされた音が使われている期間もあって、後半は和楽器だけという瞬間も出てきます。その為に、楽器や奏者を変えながらレコーディングも3回に分けて行いました。
ストーリーとサウンドのカラーがシンクしていく……物語の進行に合わせて楽器を変えていくというアイデアをやりたいなと思っていまして、後半は篳篥とか笙、和琴といった雅楽の中でも「国風歌舞」という日本古来の音楽の為の和楽器を使用しています。その演奏に関しても嘘にならないように、専門機関の人たちに依頼をし、その方々と一緒に音を作っていきました。
Dパイたちは、良い意味でチグハグな関係性が魅力
――『ひそねとまそたん』に登場するキャラクターは、人間的な部分でとても感情移入をしやすい造形がされているように思います。"キャラクター"という面で、音作りにインスピレーションを受けたエピソードなどありましたら、教えていただけますか?
岩崎:個人的には、キャラクターソングや各キャラクター毎のテーマソングみたいなものは余り好みではなく、作ることがないんです。音にキャラクターを決め打ちで繋げるのではなく、もっと有機的にリンクさせたいと思いがありまして……。
作品を観ていて、Dパイたちの関係性は凄く良いなと思ったんです。音楽的な部分で、フィードバックされたとすると……『Dパイ ブルース』というタイトルのトラックがあるのですが、この曲は、ブルースという音楽的フォームは守りつつも、Dパイたちの良い意味でのチグハグさというのを上手く表現できたらなと思い、敢えて全然ブルージーに作っていないんです(笑)。
コンビネーション・オブ・ディミニッシュというジャズでも少し難度の高い音階があるんですけど、それをテーマに使いながらも意識的に一切上手く使いませんでした。
Dパイ同士、仲は決して良くないわけで、しかも劇中でフォーカスされるある一点を除いて人間性も全然違うんですけど、それをシリアスになり過ぎずに音で表現する為に、コンディミスケールを最もヘタクソに使った曲になっていますね。