海産物を主体にした定食が9,000ウォン

釜山駅から2駅の南浦駅から左手に海とチャガルチ市場のビルを見ながら東から西へ歩く。ビルが視界から消える辺りで右手に3階建てのビルが見えるが、これに注目する日本の旅行者はあまりいないだろう。

新東亜市場と呼ばれるこのビルもチャガルチ市場のビルと同じで、中に刺身店や乾物店がぎっしり詰まっている。地下には食堂街があるが、10年前に初めてここを訪れたとき飲食店は一軒しかなかった。それが「タミャン食堂」だ。

【 気になる韓国、ソウルの今vol.33】このカウンターの左側に海につながる階段があり潮風が降りてくる

これだけ大きな魚市場だから、市場で働く人や仕入れに来た人が利用する安くて旨い食堂があるはずだと踏んで来たらどんぴしゃり。

この店のことを拙著『釜山の人情食堂』(双葉社)に書いて以来、ブロガーや女性誌が取材に訪れ、日本の釜山リピーターにも知られる店になったが、コロナ禍を経てもしっかり生き残ったのは、やはり地元客の胃袋をがっちりつかんでいるからだろう。

この店に来ると、ほとんどの人がペクパンと呼ばれる日替わり定食(9,000ウォン)を食べる。

4月に行ったときは、主菜はサバとダイコンの煮付け、太刀魚の揚げ焼き。それに豆腐とズッキーニの入ったテンジャンチゲ(味噌鍋)、ウニ入りワカメスープ、イカの塩辛、目玉焼き、豆腐炒め、ナムル2種と白菜キムチ、海苔が添えられた。

【 気になる韓国、ソウルの今vol.33】「タミャン食堂」のペクパン(定食)9,000ウォン

10年前はこれにカンジャンケジャン(カニの醤油漬け)まで付いて6,000ウォンだったので、かなり値上りしたが、ランチ一食10,000ウォンは覚悟しなければならないご時世に、9,000ウォンでこの質とボリュームなら文句はない。

チャガルチ市場で働いている人は体力勝負なので、これくらい食べないともたないのだろう。場所柄、味付けも薄くないので、ごはんが進む。

訪れたのは午前11時頃。出前注文の電話がひっきりなしに鳴っていた。大きな盆におかずが載せられ、新聞紙がかけられる。スンニュン(おこげのスープ)もペットボトルに充填され、おばさんの頭の上に載せられて市場に向かう。

大きなコの字型のカウンターの店なので一人でも利用しやすい。海側の席に座れば、潮風がふわ~っと背中を包む。港町釜山にいることを舌で、目で、肌で感じられる幸せな食堂だ。

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「タミャン食堂」

住所:中区チャガルチ路42新東亜市場地下1階 営業時間:6時~16時 定休日:第2・第火曜

鄭銀淑:ソウル在住の紀行作家&取材コーディネーター。味と情が両立している食堂や酒場を求め、韓国全土を歩いている。日本からの旅行者の飲み歩きに同行する「ソウル大衆酒場めぐり」を主宰。著書に『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』『釜山の人情食堂』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』など。株式会社キーワード所属。