多様な人々との出会いから“本心”が見えてくる

一方、勝男は鮎美のことが忘れられない。どんな気持ちでいたかを知りたくて料理を始め、いつか鮎美に食べてもらいたいと夢見るようになる。未練がましく、余計なひと言や、人によっては圧を感じる物言いで勝男は会社の後輩から疎まれていたが、実は純粋で素直な性格。周りのアドバイス通りに料理や写真投稿アプリなどにチャレンジし、どんどん腕を上げていく。きっと仕事でも何でも、一度取り組んだら、ポジティブに人生を切り拓いていくタイプだろう。

勝男は、マッチングアプリで知り合った初めての女友達で、今は相談相手でもある通販会社の社長・柏倉椿(中条あやみ)のホームパーティーに誘われる。何か作ってきてという椿のリクエストに応え、張り切って小籠包を持参するも、「塩から食べて」と食べ方のうんちくをゴリ押しして場内をシラケさせる。酒を片手に交流するのが目的の参加者たちとは波長が合うはずもなく、残った小籠包を手に早々に退出するのだった。

ドラマを見ていて思うのは、鮎美と勝男は、長年同棲していたのに本心を明らかにする努力が足りていなかったということ。どんな時だって、そこにいて当たり前のものなんて、ない。テレパシーが使えるわけでもないし、自分の気持ちを伝えないとわからない。言葉が多かったり、足りなかったりして、誤解を招くことだってある。亭主関白な考えが“化石”的だと揶揄され勝男に目が行きがちだが、相手を家に縛りたくなる鮎美も自由度は低く、それは令和的なのかどうかはわからない。

ハイスペで自分を愛する彼氏だが切り捨てた鮎美を見ると、やはり条件だけで結婚相手を探すのは、現実でも難しいと思わせる。筆者は独身時代、婚活で1000人の男性と出会った末13歳年下の彼氏と結婚して一児の母となったが(詳しくは拙著『どうしても、結婚したかった。1000人の男性と出会った私の婚活ラプソディー』をご覧ください)、やはり条件に適う相手なのにしっくりこないことはあった。逆に条件通りではなくとも直感的に運命を感じることがあるなど、多様な人々と出会い、話すうちにさまざまな人生があること、自身の本心について気づきを得た。

恋愛や結婚は、相手があること。いくらこちらが好きでも伝わらない時もあれば、相手から求められてもその手を取ることができない時もある。さらに、鮎美と勝男のように、もっと早く腹を割って話せる仲になっていればとんとん拍子なのに……というようにお互いの思惑通りに運ぶかどうかは、タイミングも重要だとわかる。