死んだ男が猫の姿で家族の元に戻ってくるファンタジックな設定とハートウォ―ミングなストーリーで話題を呼んだ板羽皆の人気コミック「トラさん」が、『トラさん~僕が猫になったワケ~』のタイトルで実写映画化(2月15日公開)。
本作で映画初主演を飾ったKis-My-Ft2の北山宏光さんが、初めて挑んだ猫役の楽しい撮影秘話から映画が描く家族の少し変わった愛のカタチ、表現者として自身のスタンスまでたっぷり語ってくれました。
『トラさん~僕が猫になったワケ~』はある日、突然、交通事故で死んでしまった売れないマンガ家の高畑寿々男が“あの世の関所”の判決を受けて「過去の愚かな人生を挽回するために猫の姿で1ヶ月間だけ家族のもとに舞い戻り、大奮闘する笑えて泣けるストーリー。
そんなユニークな設定に映画初主演で挑んだ北山宏光さんは、妻の奈津子がパートで稼いだお金をギャンブルに使うダメ男の寿々男と人間と言葉を交わすことのでない猫のトラさんをどのように演じたのか?
普通の映画と違い、誰もやったことのない奇抜でハイレベルな芝居に挑んだ彼の飾らない言葉は時に楽しそうで、時に熱く、話が進むに連れて“北山宏光”という人の仕事の考え方や器の大きな実像までも浮かび上がらせることに。
このインタビューを読めば、北山宏光さんが体現した愛すべき猫の“トラさん”にきっと会いに行きたくなるはずだ。
撮影後の感想「猫でよかった~と思いました(笑)」
――『トラさん~僕が猫になったワケ~』を撮り終わって、いまはどんな感想をお持ちですか?
猫でよかった~と思いました(笑)。
――それはどういう意味ですか?(笑)
何だろうな~。猫になれてよかったという感じかな。
役者の仕事をしていても猫になることはあまりないと思うんですよね。ましてや猫スーツを着て、人間の日常生活に猫として溶け込んで演じるなんて普通の役者さんでも躊躇すると思うんですよ。それを初めての映画で、初主演で、初猫でやらせてもらえるというのは、僕の中でもやっぱり大きいことでしたからね。
撮っているときはまだ分からなかったけど、いまの自分としてはやりきった感もあったので、猫になれてよかった、猫に挑戦させてもらってよかったなというのが素直な感想です。
――猫役のオファーを最初に聞いたときはまずどう思いました?
そのときから、半分面白いと思っていましたね。
不安ももちろんなくはないですけど、全体を不安と興味で割るなら、80パーセントが興味や楽しみでした。そっちの方が大きかったです。
――その興味や楽しみはいつもよりも大きなものだったのでしょうか?
そうですね。人間の役じゃないですからね(笑)。
普通は演じる人のことを深く掘り下げる必要があると思うんですけど、今回はそれにプラスの様子が乗っかっていたから、より楽しみだし、めっちゃやり甲斐があるじゃん! と思いました。
――猫スーツを着た自分を最初に見たときはどう思いました?(笑)
デカい猫だなって思いました(笑)。
でも、実際に現場でカメラテストをしたり、映像の中の自分を見たときにけっこうしっくりきて。風が吹いたときにスーツの毛がなびいて、そういうところがけっこうリアルだったし、やっぱり面白いなと思ったんですよね。
逆に、トラさんがダンボールに入って寝ているシーンでは、僕が入るダンボールもめっちゃデカいんですよ(笑)。
そのへんのアンバランスさと言うか、猫スーツの俺は嘘だけど、その世界にいるトラさんは嘘じゃないというのを実感して、あっ、現場を信じてやっていけばいいんだなということをそのとき初めて思ったかもしれないです。
自分が自信のあるシーン
――人の心を持ちながらも見た目は猫のトラさんを成立させるためにどんな工夫をしました?
奥さんと娘のやりとりを猫として聞いて、ちゃんと受けとめるときと“また俺のことを言ってるよ”っていう素振りを見せるときがあったんですけど、いずれにしても、ふたりをよく見て、ふたりの会話を聞きながらリアクションをすることがいちばん重要かなとは思っていました。
――自分で工夫した猫の表情や動きで自信があるシーンは?
自分が自信のあるシーン? でも、猫なのに二足歩行だったりする芝居の嘘とリアルが混在したところで遊べるなと思ったのは、例えば寿司を食べたついでにガリも食べちゃうところですね(笑)。
あそこは嘘の中でギリギリ遊べるラインだったし、遊んでいると言うと語弊があるかもしれないですけど、ほかにもいろんなシーンで試せることは試してみて、それで監督が笑ってくれたらOKみたいな感じでやっていました(笑)。
――とは言え、猫スーツを着て演技をするのは大変だったんじゃないですか?
あの猫スーツは頭から被るんですけど、慣れるまでは相手のセリフがあまり聞こえないし、少し距離が離れると何を言っているのか分からなくて。
それに意外と首のあたりが体にフィットしなかったんですけど、それが映画の中では可愛かったりするんですよね(笑)。
――相手のセリフが聞こえない問題はどう対処したんですか?
穴をちょっと空けてもらいましたけど、あとは慣れるしかなかったです。
アドリブがめっちゃ入ってます(笑)
――先ほど言われたガリのところはアドリブだったんですよね。
はい、アドリブですね。
――そうやって、自分で遊んだり、試してみるというのはほかのお芝居の現場でもよくやられていることなんですか?
遊んでいることは多いかもしれないです(笑)。そうですね。
それこそ、「家族狩り」(14)というドラマのときは俺が勝手にクセをつけて演じていたら、脚本家さんが「いいね」と言って、俺に合わせてセリフをすべて書き直してくれたし(笑)。
それがいいのか悪いのかは別として、僕は「こんなのどうですか?」って提示できるものを必ず現場に持っていくようにはしています。もちろん、役にもよりますけど。
――今回、そういう風にやってみて採用されたシーンはほかにありますか?
今回は何だろうな~ラップとかはけっこうやったな~。あとは、寿々男の葬式のシーンですね。実はあそこはもうちょっと長く、いろいろなことをやっていたんですよ(笑)。
――何をやったんですか?
猫なので、人から文句を言われても聞かなくていいし、勝手にボケたりツッコむことができるんですよね(笑)、だから、台本に書いてないところで、そういう動きをちょいちょい入れていたような気がします。
――関所のシーンでも遊びました?
関所のシーンもそうですね。アドリブがめっちゃ入ってます(笑)。
セリフはもちろん台本通りなんですけど、動きに関してはけっこう遊んでいて。バカリズムさんが演じた関所の裁判長に「あっ、それ以上、こっちに来ないで」って言われる、あそこの僕の動きはほとんどアドリブで(笑)。カメラテストでやって「いいね~」みたいな感じになったので、俺は落ち着きがない感じで前に出て行ったんですよね。
そしたら、バカリズムさんが「それ以上はちょっと」って、あの声のトーンで返してきたから、俺、吹き出しそうになっちゃいました(笑)。
あと、「次の方」って言われるところでは、あの白い空間なので、次の方がどっから来るのか分からないんですけど、何となく自分で目安をつけた方向を見ながら「来るな! 来るな!」って怒鳴ったりして。そうやって遊んでました(笑)。