鈴木拡樹との特別なエピソード
──2008年の初演から今年で11年経ちますが、11年間、同じ役を演じる大変さはありませんか?
椎名 大変なことは全くないです。楽しくやっているし、稽古に入ると自然と子どもっぽくなるんですよ。悟空を演じている時期は「甘えていいんだ」と思っているので、稽古場から、拡樹だったり唐橋さんだったり……周りにかなり甘えてます(笑)。
それに、4年間空いたことを感じさせないぐらい「同じ悟空でいたい」と思っているので、逆に変えたくない気持ちのほうが強いかも。公演をやるたびに悟空の年から離れていくけど、気にしたことはないんです。
それに初演の時は21歳ぐらいかな……他は役より年が下だったりするキャストがいるなか、すでに悟空より年上でしたからね、僕の場合(笑)。
──『最遊記歌劇伝』だけの独特な雰囲気みたいなものはあったりしますか?
椎名 最遊記歌劇伝のキャストって、けっこうバラバラなんですよ。
(鮎川)太陽は太陽で、毎回何かに熱くなっては一人で空回っているし、拡樹はぼんやりとそれを遠くから眺めていて、唐橋(充)さんは我関せず、ミカシュン(三上俊)は自分の美のことだけ考えていて……それを俺がまとめる。それが最遊記歌劇伝って感じです(笑)。
──座長の鈴木さんがまとめるわけではないのですね(笑)。鈴木さんとの特別なエピソードは何かありますか?
椎名 拡樹が毎回、冗談半分で「新しい技を覚えてくるの?」と言ってくるんですよ(笑)。
僕もアクロバットだったり、身体表現で新しいものができたらいいと思っているんですけど、なにせ練習する時間がなくて……。
体が二つあれば、本番に行っている間にアクロバット教室に行けるんですけど、体はひとつしかないから。ただ、今回はまだ拡樹に何も言われていないから、どうなるかな(笑)。
──毎回言われるのですね(笑)。
椎名 毎回言われていましたね。だいたい稽古に入る前に、「また覚えてくるんでしょ?」って(笑)。
そうやって拡樹に言われたら、覚えていかないわけにいかないっていうか。覚えて行って見せたら、あいつ喜ぶんだろうな……って思うから。
──鈴木さんを喜ばせたい……というのが、玄奘三蔵と孫 悟空の関係を見ているようでほっこりしますね。ところで、初対面の時のことは覚えていますか?
椎名 拡樹のことは今でも覚えてます。
チラシの裏に載せるのはだいたい宣材写真なんですけど、一作目では、チラシに載せるための写真をわざわざ撮ったんです。
全員黒いシャツを着て。その撮影で初めて拡樹に会ったけど、すごく印象的でしたね。
エレベーターが開いたら彼が乗っていて、僕が後から撮影ですれ違う程度……という感じだったと思います。その時にお互い、“あ、キャストの誰かだな……”って感じで軽く会釈して。
そしたら、彼がずっと僕の目を見て離さないんですよ。
それにずっと微笑んでるから、僕は心の中で“なんだこの子……”って(笑)。
さっきも言いましたけど、当時は作品とかキャストのことを調べる手段があまりなかったし、撮影前にも調べてなかったから、やたら微笑んで目を合わせてくるその子がいくつなのかも分からなくて(笑)、年下?同じ年?って。
その後に話してみたけど、やっぱりどこまでいっても微笑んでいる子でしたね。拡樹はずっと優しいです。
──さて、新作では、ヘイゼル役の法月康平さんとガト役の成松慶彦さんが新キャストとして登場されます。
椎名 毎公演、三蔵一行の対になるキャラクターには新しいメンバーがキャスティングされますが、今回も歌の上手い方が入ってくるので、そこは……圧倒していただきたいな、と。
──“圧倒したい”ではなく?
椎名 圧倒してもらいたい、です(笑)。僕は動きで、“見栄え”を担当します(笑)。
もちろん僕らも歌を歌いますけど、新キャストには特に歌で、我々を驚かせてほしいです。あとは、居心地よく、全力でやっていただければな、と。
ただ、そのためにも「三蔵一行の4人はやる時はやる」というのは思わせたいですね、稽古場から。稽古場でのプロとしての居方というか、そういうもので「この現場はしっかりしているな」と思われたいです。
──初演から出ているのは、椎名さんと鈴木さん、そして唐橋さんの3人ですが、個人的に、唐橋さんからお二人への愛をすごく感じていますが、実際はどうですか?
椎名 僕から唐橋さんへの愛もすごいですよ(笑)。
9歳年上の大先輩だけど、唐橋さんとは好きなものが似ているんです。
お笑いのセンス的なものとか、好きなお芝居とか。僕がすごく懐いて、そこから仲良くしていただいて、仕事も含め一番会う人かもしれないですね。
──最遊記歌劇伝のバックステージ映像(DVD特典)も面白いですよね。
椎名 バックステージの特典映像は毎回こだわってるんです。その企画を、唐橋さんが考えることも多いけど、こだわりすぎてけっこうケンカになります(笑)。
「この企画はみんなにとって大変だから止めようよ」って言うと、「なんでだよ! お客様を楽しませたいんだろ!」って(笑)。今回も彼は何かしらやりたがると思いますよ。