子どもにはどういう大人になってほしいですか?
将来の不安もささやかれる中、自分でしっかり稼げる、自立した人間になってほしいと思うでしょうか。
どんな仕事に就くにせよ、自立した大人に必要な能力としてよく挙げられるのが「コミュニケーション力」です。そして最近では、「自己肯定感」も重視されていますね。
自分に自信があり、自分の思いをきちんと言葉で相手に伝えることができ、相手の話もしっかり聞ける。そんな人には、きっといい人間関係ができ、仕事にも恵まれそうですよね。
では、そういった力はどうやって育てていけばいいのでしょうか?
10歳頃までにコミュニケーション教育が行われているフィンランド教育や子育て支援制度に着目したオリジナルメソッドを開発した水橋史希子さんの著書『将来の学力・コミュ力は10歳までの「言葉かけ」で決まる――フィンランド式子育て』より、子どもの学力・コミュ力が育つ親の言葉かけをご紹介します。
コミュ力の中心は対話力
コミュニケーション能力、略してコミュ力。よく聞かれる言葉ですが、具体的にはどういう能力のことをいうのでしょうか?
友達と仲良く話ができること? 自分の思いを正確に言葉で伝えられること?
水橋さんは、「コミュニケーションには、発言力よりも対話力が大事」だといいます。
そして、発言力は経験やトレーニングで大人になってからでも身に着けられますが、対話力は小学生、10歳くらいまでに培った「人と話すのが楽しい」という体験が土台になるので大人になってから身に着けるのが難しいのだとか。
そして、対話というのは会話とも少し違います。
お互いに言いたいことを言って、自分が話すことが軸になっているのが「会話」。自分が話すよりも相手の話を聞くことを優先し、お互いの違いを理解し合って合意できるところを探るのが「対話」です。
母「ママはこう思うけど、どう?」
子「僕はこうしたい」
母「ちょっとママとは違うね。じゃあ、こういうのはどう?」
子「それでもいいけど、僕ならこうするかな」
母「そうか。じゃあ、こうしてみようよ」
子「それならいいよ」
こういった対話を小さいうちから意識して親子でやりとりしていると、コミュニケーション力の土台が自然と培われます。
「ミクシ?」の言葉かけで子どもの自主性を伸ばす
水橋さんがフィンランドの教育現場を見ていて印象的だった言葉がけが「ミクシ?」というものだそう。
これはフィンランド語で「どうしてだと思う?」という意味の言葉です。
「ダメなものはダメ!」といって理由も説明せず子どもを叱りつけるような場面がありますが、これからの子どもは「なぜダメなのか、理由を自分で考える力が必要」だと水橋さんは言います。
フィンランドの教育現場では、「ミクシ?」と繰り返し生徒に言葉をかけ、子どもたちの自主性やコミュ力を育てていくそうです。
水橋さんが見たある授業では、「勇気があること」「人に優しいこと」「嫌な気持ちになったこと」についてクラス全員で考えていました。そのキーワードに関して、実際に自分が家や学校でやったことを発言するのです。
たとえば「人に優しいこと」で「友達が椅子を運ぶのを手伝った」と発言した子どもに、教師が「どうして手伝おうと思ったの?」と理由を問いかけます。「大変そうだと思ったからです」という返事を聞いて、教師は「相手の気持ちを考えたのね。そのとき〇〇くん(友達)はどう思った?」と問いかけ、相手側にも発言を促します。
「されて嫌だったこと」も、一方的に悪いことをした方を「ダメだよね」というのではなく、相手の気持ちを理解させるために「ミクシ?」という言葉がけをする姿が見られたそうです。
先生に言われたことをただやるのではなく、生徒が自ら考えて行動することが大事、とされているのですね。
日本でもこれからはこういった「なぜそう思うか」を考え、それによって自ら行動する力が求められます。ふだんから親子で「どうしてそう思うの?」「私はこう思う」というやりとりを心がけておくと、自分で考える力が育つでしょう。