知っておきたい愛着形成のこと

斎「はい。『愛着』とは、子どもと特定の存在(親、養育者)との間に形成される特別な情緒的な関係(結びつき)のことをいいます。

親(養育者)からの十分なスキンシップと反応豊かで愛情深い関わりの中から、親は自分のことをわかってくれる、必要な時に求めに応じてくれる、守ってくれるという安心感・信頼感の内在化と、その積み重ねによって、安定した愛着が形成され、その安定した愛着を土台として、外の世界に安心して踏み出していけるのです。

愛着形成がうまくいっていると、ストレスや刺激への耐性もついてきます。

反対に愛着がうまくいっていないと、耐性が低くなるので、ちょっとした刺激でも耐えきれなかったり、心の中の安定した愛着関係の土台が育っていない、もしくは不安定になっているため、なかなか親離れができなくなったりしてしまいます」

――いちばん近い存在の親との十分な結びつきと信頼関係が、その後の自立の燃料になるというイメージでしょうか。

斎「安定した愛着は、対人関係を将来にわたって安定したものにします。愛着が不十分だったり、愛着関係に傷が入って不安定になったりすると、その後の親やその他の人との関係も不安定になりやすくなります」

――親との愛着関係が、その後の人間関係に深く影響を与えるのですね。話を学校に戻すと、子どもが学校に適応しにくくなる要因として、HSCという気質のほかに、愛着形成がうまくいっていないという要因が重なることがあるということでしょうか。

斎「はい。HSCという概念を知って、救われた、光が見えた、と感じられたりしますが、大切なのは、そこで終わりではないということです」

――むしろ、そこからが始まりで、子どもの気質をベースに、現在起こっていることを見つめることが重要ということなのですね。

斎「はい。気質の問題だけで留まってしまわず、愛着形成ができているか、といったことを見つめることが必要です。

――自分の子育てを見直すということですよね。なかなか覚悟がいる気がします

斎「はい。私は、愛着の大切さが、日本ではまだまだ普及されていないと思っています。その原因のひとつに、愛着の問題は子育てそのものについてのことなので、学校や仕事、嫁ぎ先などで多くの社会的責任を背負わされ、さまざまなストレスを抱えているお母さんには、なかなか受け入れにくいことなのかもしれません」

――なるほど・・・、お話を伺っていて、思ったことなのですが、頭ではわかっていても、今の日本社会では、子どもと十分な愛着関係を結ぶことが難しいと感じる人が多いのではないでしょうか。「3歳頃までの愛着形成が大事」というと、子どもが3歳までは母親は子育てに専念すべきだ、といういわゆる“3歳児神話”と結びついて反応してしまう人もいるかもしれません。

斎「現代の子育てでは、多くの親がストレスを抱えていると感じます。

『3歳頃までの愛着形成が大事』というのは、愛着が形成され、分離不安がもっとも高いとされるのがこの時期だからです。特にHSCは、このデリケートな時期に、母親から引き離された体験によって愛着関係に傷が残り、強い不安となって尾を引きやすいため、それを回避するという意味では、とても重要だと思います。

しかし注意すべき点は、母親だけに子育てを任せたり、責任を負わせたりするという意味ではないということです。

――本当にそうですね。

心の回復に欠かせない「安心の基地」とは?

――もし、愛着が不安定であることがわかった場合、後からでも愛着は形成し直せるのでしょうか。

斎「はい、後からでも子どもに対して共感的で応答性の豊かな関わり方をして、子どもの心が親の本当の愛情で満たされていけば、子どもの心は回復していきます。

親の本当の愛情で満たすというのは、子どもが好むような十分なスキンシップや、子どもの気持ちを汲み取り、子どもの反応やニーズに応えようとする親の関わり、その温もりを、子どもが肌で感じながら安心感に包まれていくことです。

そのような反応豊かで愛情深い関わりの中から、『自分は守られている、愛されている』『自分のことをわかってくれている』というイメージが子どもの心の中に内在化されていくと、親がそばにいなくてもそのイメージを想起することによって、安心感を保つことができるようになっていきます。これが愛着の形成です。

――それが、本書に出てくる、子どもにとっての「安心の基地」に、親自身がなるということなのですね。

斎「シンプルに言って、子育ては非常に大変です。仕事のほうが楽と言う人も、少なくありません。

子育てを夫婦で分担するだけでなく、子育てに対する価値が、働くことと同等か、それ以上の価値があることを認識していくことや、子どもの考えや感情が否定されない、共感的で肯定的な養育の大切さを、父親(パートナー)がしっかりと認識していくことが求められます。

つまり、子どもにとっての『安心の基地』を構築していくために、(子どもにいちばん近い存在であることが多い)母親にとっての『安心の基地』が構築されていくことが必要なのです。

k「本当に、ご主人にどう土俵に乗ってもらうかは、すごく大きな課題ですよね」