ママの安心を奪うもの
k「私自身、愛着ということを知らないで、子どもを産んで育てていて、HSCという言葉の後に愛着のことを知ったのですが、すごくショックを受けました。
どんなに自分では最善を尽くしていたつもりでも、子どもがどう感じていたかというと、実際は明らかにダメージを与えてしまっていたということもあるんですよね。
この本の中で、HSCだからこそ、愛着の不安定さを抱えやすいということを伝えられてよかったと思っています。
この本は、HSCとそのご家族にとっての安心材料になることを目指した本なんですね。愛着について知らなくても、今からでもその知識を得て、取り組むことができれば、いちばんの安心材料になると思っています。
――子どもの安心のためには、親も安心が必要ということですね。
k「それはすごく必要ですね! 情報、知識、味方(パートナーや第三者)を得ることが大事なのですが、それらが子どもを学校に戻すことが前提の考えだと、親はすごくブレると思います」
――実際と違うわけですもんね、目の前の子どもと。
k「子どもの気質をわかってそれに寄り添ってくれるような情報、知識、味方(パートナーや第三者)が安心の源になると思います。これがコミュニティーになると、同じ立場の人に会えたり、先に体験した人の話を聴けたりします。とにかくひとりで抱えないことが大事です。
――ひとりで抱えないこと、本当にそうですね。koko kakuさんは、HSC親子の安心基地というオンラインのコミュニティーを運営されています。
k「はい。最近は不登校で調べると、HSCに行き当たる方も増えてきて、お母さんには子どもと寄り添う方向で判断しようとする方もかなりいると思います。ですが、学校だったり、パートナーや親たち、また近所の人などからのアドバイスや干渉が、お母さんの安心を奪っていくんです」
――子どものためを思って、というスタンスだと、つらいですよね。
k「HSCの広がりは、まだあくまでも当事者止まりだと感じています。HSC(HSP)ではない人たちにはまだまだ伝わっていないので、伝わってほしいと思っています」
冒頭にも述べたように、今は、フリースクール、学童保育、デモクラティックスクール、そしてホームスクーリングなど、学校以外にも教育の場の選択肢は増えてきています。ですが、学校がダメならこっちがある、という単純な話ではないのだと、斎藤さん夫妻のお話を伺って思いました。
考えてみれば、ホームスクーリング以外は皆、結局は他人に子どもを預けることになります。もちろん、ホームスクーリングをしながら、時々フリースクールのような場所に子どもをお願いするというようなことも可能だとは思いますが、一番優先させたいのは子どもとの対話で、子どもが安心を感じていなければ、どんなに立派な教育理念の学校でも、子どもにとっては普通の学校と同じなのです。
koko kakuさんは、「今、子どもにとって、必要なことがなんなのか、大丈夫と言える将来のために、今、どうするかが大切」と言われていました。
もしかしたら答えは、目の前の子どもが導いてくれる先にあるのかもしれません。
新学期、もしも子どもが「学校に行きたくない」と言い出したら、まずは、子どもの心としっかり向き合う時間を取ってみるのはいかがでしょうか。
【取材協力】斎藤 裕
1961年生まれ。久留米大学医学部卒業。精神科医。元・精神保健指定医。
2008年に沖縄でクリニックを開業。トラウマからの回復をベースとしたカウンセリング・セラピーを行っていくに当たり、カウンセリング機関へと転向することが最善と考え、2017年に『さいとうカウンセリングルーム』を設立。
現在、『HSC子育てラボ』の顧問であり、勉強会の講師、記事の執筆や監修なども行っている。
自らもHSC・HSPで不登校や生きづらさの経験を持つ。
HSCにおいては、敏感で繊細な気質ゆえ抱えやすい「HSCと愛着の問題」「HSCとトラウマ」の研究を深め、「愛着の問題」「トラウマ」からHSCを守る(予防する)ことや、「愛着関係の傷を含むトラウマ」からの回復に欠かせない『安心の基地』を家庭に構築することを目的としたカウンセリングに力を注ぐ。
著書に『ママ、怒らないで。:不機嫌なしつけの連鎖がおよぼす病』(風鳴舎)があり、2019年7月に刊行された『HSCを守りたい』(風鳴舎)の第1章・第2章・第6章の原案を執筆。
koko kaku(斎藤暁子)
「HSC子育てラボ」代表 心理カウンセラー。 9歳になる子どもは敏感・繊細気質(HSC)。ホームスクールで育っている。
2018年3月に「HSC子育てラボ」を立ち上げ、HSCを育てるお母さんのサポートや、HSCの魅力や個性、才能がありのまま発揮されるよう、HSC概念の共有・拡散を目標に、夫婦で情報発信、勉強会などの活動をしている。 2019年4月にオンラインコミュニティ「HSC親子の安心基地」
始動。同7月に「HSCを守りたい」(風鳴舎)を出版。夫との共著書に『ママ、怒らないで。:不機嫌なしつけの連鎖がおよぼす病』、 小冊子絵本『敏感な子の守りかた絵本』がある。