あの巨匠が笑いと哀愁たっぷりに描く『まんが親』

鈴木「さて、次も共感できる作品。あの巨匠が、育児漫画書いてる!と言えば、これだよね。吉田戦車先生の『まんが親 ―実録!漫画家夫婦の子育て愉快絵図』。」

Chacco「おおお、きたー!」

鈴木「まず、『伝染るんです。』直撃世代としては、あの吉田戦車先生が子育て漫画を描いている、っていう驚きがあるんだよね。

僕は『伝染るんです。』を中学から高校ぐらいのときに読んだけど、すごい衝撃だった。ギャグ漫画の流れを大きく変えた作品だと思うんだ。」

Chacco「ギャグ漫画史の中でも超重要作品だよね。漫画史における大友(克洋)以前、大友以後、みたいなレベル。

私は世代はちょっとずれるけど、学校の図書室に『伝染るんです。』があったからね。学校の図書館にある漫画が、手塚治虫先生の名作『火の鳥』と、『伝染るんです。』くらいだったんだよ。

そこで『伝染るんです。』を読んでるとカッコイイ!っていうイメージだった。憧れのまなざしで見てたよ。」

『伝染るんです。』が憧れの対象?!

鈴木「そんなイメージなのか!世代の違いなのかなぁ(笑)。

個人的に、吉田戦車先生の作品って、いわゆる不条理じゃないと思っているんだ。常識を、ちょっとずらしてみたり、常識とされているものを、入れ替えてみたり、っていう思考実験だと思っているし、あとはストーリーモノも結構アツいんだよね!って、吉田戦車先生の事を語りまくってしまうな…。」

Chacco「私には前回、西原先生のことを語る時間はないと言っていたのに!ずるいよ!利権だ!」

鈴木「すいません(笑)。この作品も、夫婦二人の時とは、ちょっとずれる日常、みたいなものを、うまく描いているな、と思うんだ。子どもが産まれた、育っていく、ということで、大人だけの生活からどう変わるか、みたいな。」

Chacco「(吉田戦車先生の妻の)伊藤理佐先生ファンだから、理佐先生のおんなの窓』も『おかあさんの扉』をずっと読んでいて、夫婦の間の面白エピソードも読んでいたんだよ。

『まんが親』では、それを戦車先生側から読めるのが面白かったな。お父さん目線でかなりリアルに描いていて、「こういう風に見えてるのね」という違いがあって。」

鈴木「あと、もう一つ、これはどうしても触れたいのが、「姉」のことを思い返して号泣する回。こんな切ない自分自身の描写をするんだ!という驚きがあった。

結構、吉田戦車先生の漫画って、『伝染るんです。』もそうだけど、切ない話が多いと思うんだよね。センチメンタルな…抒情性っていうのかな?」

Chacco「それが他の育児漫画よりも、明らかに多いかもしれないね。ドタバタだけじゃないんだよね。ちょいちょいセンチメンタルな気持ちになれる育児漫画って、手腕がないと描けないからさ。」

鈴木「あと、印象的なのは「子守歌を歌いたくない」みたいな回があるんだよ。男がそんなことしたら、陰陽的に悪い!みたいなことを考えたっていうのがあったり、週に一回しかテレビを見せないようにする、とか、結構細かいことを考えているんだよね。」

Chacco「なんでそんな昔の奉公人の少女みたいなことをしてるんだ!って怒るんだよね(笑)。やっぱり、戦車先生の育児はこうでなきゃ!って思ったなぁ。

年を重ねているだけあって、どこか落ち着いているのもいい。落ち着いた大人の、非常にシュールでそして、切なくもあり、哀愁が時々漂う、幸せな日々…っていう。」

鈴木「亡くなった友人の話とかも出てくるしね…。そう考えると、育児漫画でありながら、人生のいろいろを考える漫画でもあるのかなぁ…。」

Chacco「なるほどね…。」