(K)NoW_NAME:Ayaka Tachibana『Knew day』(『灰と幻想のグリムガル』OP)
理由も分からないままにモンスターが跋扈する異世界へと飛ばされた主人公たちの姿を描く『灰と幻想のグリムガル』は、その繊細かつ緻密なシナリオとハイクオリティなアニメーションで、コアなアニメファンからも高い評価を得た作品です。
本作では、主題歌や劇中歌、劇伴をスペシャル音楽ユニット「(K)NoW_NAME」が担当しており、濃厚なヒューマンドラマやハードなアクションシーンと共に、メタルやコア系の音を基盤にした挿入歌の数々をタップリと噛みしめることができました。
特に秀逸な楽曲がオープニング主題歌の『Knew day』。ファンタジックな世界観に相応しく、ストリングの音を多用したシンフォニックなサウンドに、メロディアスかつスピーディーなメタルミュージックを合わせた「シンフォニックパワーメタル」「メロディックスピードメタル」をイメージさせるナンバーです。
胸が締め付けられるような美しいメロディと性急なストリングス、そしてメタリックなギターの音色が織りなすバンドサウンドと、ヴォーカルを務める立花綾香さんの歌声が生み出す"メタルアニソン"は、とてつもなくエモーショナルで『灰と幻想のグリムガル』に相応しい楽曲となっています。
絶望的な状況と過酷な現実に立ち向かいながらも、決して希望を捨てない主人公たちの姿を描写した歌詞も素晴らしい!
ちなみに、(K)NoW_NAMEのキーパーソンであり、このメタリックな楽曲を手掛けた作曲者はR・O・Nさん。R・O・Nさんは、同時期に放送されたアニメ作品の中で、『Dimension W』では、ハードなデジタルロック、そして、『灰と幻想のグリムガル』では、シンフォニックなメロディックスピードメタルという全く異なる音楽性を持つ楽曲をリリースしています。
こうしたクリエイターの幅広い音楽センスとバックボーンを楽しむことができるのも、アニソンのおもしろさであり、醍醐味の一つといえます。そういう意味でも、『Genesis』と併せて、上半期のベストに選びたい楽曲です。
MICHI『Checkmate!?』(『だがしかし』OP)
田舎の駄菓子屋を舞台とした「おかしくて」「お菓子な」コメディアニメ、『だがしかし』。
主役である不思議なヒロイン、枝垂ほたるを演じた竹達彩奈さんが歌うエンディング曲『Hey! カロリーQueen』も良い曲でした(また、『不思議の国のアリス』をモチーフにしたエンディングアニメーションがチアフルかつポップで最高なのです!)が、ここはオープニング主題歌の『Checkmate!?』をピックアップさせていただきます。
沖縄出身の新進気鋭のアニソンシンガー「MICHI」さんが歌うこの曲は、ボーイ・ミーツ・ガールなラブソング。
「今JAZZYでFUNNYな即興でセッション」「シュガーとスパイスごちゃまぜにジャイブして」といったリリックにも顕著に現れている通り、まさに、ジャジーなムードとひたすらに楽しいジャイブ感、そして、どこかスパニッシュな要素も感じさせる凝りに凝ったアレンジが魅力のナンバーです。
作曲と編曲は、人気音楽ユニット「Elements Garden」の藤田淳平さんと岩橋星実さんがそれぞれ手掛けており、「エレガ」らしさに溢れたトリッキーなメロディとレイヤーの細かい音作りが堪りません。
そんな楽曲を見事に歌い上げるMICHIさんの歌唱力が素晴らしく、その歌声であの複雑なエレガサウンドを見事に乗りこなす……いや、完全に自分の"歌"に取り込んでみせるヴォーカリストとしてのパフォーマンスは、聴き応え十分。
テレビサイズでは、Aメロの前半部分がカットされており、その為フルサイズで聴くと印象もまた違ってきますので、ここは是非ともパッケージ版を購入いただき、MICHIさんの歌声に身を任せていただきたいところです。
アクア(雨宮天)、めぐみん(高橋李依)、ダクネス(茅野愛衣)『ちいさな冒険者』(『この素晴らしい世界に祝福を!』ED)
様々な楽曲がリリースされた2016年度上半期のアニソンの中でも、シンプルなメロディの強さのみで勝負し、異彩を放った楽曲が『この素晴らしい世界に祝福を!』エンディング曲の『ちいさな冒険者』です。
所謂「Bメロ」での変換すらなし。「Aメロ」と「サビ」、そして「イントロ」と「アウトロ」に「間奏」という"ポップソング"として必要最小限なパートのみで構成されたこの曲は、とてつもなく素朴で、だからこそメロディの美しさが心にジンワリと染み渡ってくる良曲です。
作詞、作曲、編曲は、男女デュオ「ハンバート ハンバート」の佐藤良成氏が担当。ハンバート ハンバートの音楽性にも通じる、"歌"の魅力を引き出すストイックな楽曲の作り方には、リスナーを惹き付ける独特な引力が宿っており、作り手の個性と人柄がストレートに伝わる出来となっています。
ティン・ホイッスルやフィドル(ヴァイオリン)によって生み出されるメロディは、アイリッシュ・ミュージックやケルト音楽を想起させ、その哀愁に満ちた響きは何ともエモーショナル。THE POGUESやTHE WATERBOYSといったアイリッシュの要素を取り入れたロック、パンクバンドのファンにもオススメできる普遍的な音楽的魅力を持つナンバーです。
ファンタジーな世界を舞台に、その抱腹絶倒のコメディ描写で大人気作となった『この素晴らしい世界に祝福を!』。そのエンディング曲である『ちいさな冒険者』は、ハイテンションな本編とのコントラストも見事な素晴らしい名アニソンでした。
BOOM BOOM SATELLITES『LAY YOUR HANDS ON ME』(『キズナイーバー』OP)
最後に、上半期アニメ主題歌のベストとして選びたい……いや、絶対に選ぶべき楽曲が『キズナイーバー』のオープニング曲として使用された「BOOM BOOM SATELLITES」の『LAY YOUR HANDS ON ME』です。
EDM、デジタルロック、エレクトロ、テクノポップ……様々なスタイルで上半期を彩ってくれたテクノなアニソンですが、そうした豊かなシーンが確立されるまでには、その道を切り拓いていった偉大な先駆者たちの活動がありました。
「アニメ」と「テクノ」の歴史を振り返る上で、その2つのカルチャーを縦横無尽に行き交い、アニメファンに電子音楽の素晴らしさを伝えてくれた最重要アーティストの一組として、BOOM BOOM SATELLITESの存在は決して欠かすことはできません。
今年、公式にアナウンスされたBOOM BOOM SATELLITESの"ラスト"。そして、最後に届けられた"作品"がこの『LAY YOUR HANDS ON ME』をリードトラックとするミニアルバムです。
そのラストに感謝の言葉を送るには、まだまだ心の整理が追い付いていない……そんな方が大多数だと思います。どうしようもなく切なく、どうしようもなくやるせない。それが、多くのファンにとって正直な心情ではないかな、と。
今はただただ、圧倒的な多幸感とエモーションを持つこの曲の素晴らしさをジックリと噛み締め、様々な境界線を破壊し続けてきたバンドの偉大なる歩みに思いを馳せたいと思います。間違いなく2016年を代表する名曲です。