撮影:shimadamasafumi

何でもできることが自分のアイデンティティ

——ただ単に「いろんな楽器をカッコよく弾きたい!」ではなく、「より良い表現の為に」というところが桜村さんらしさなのかなと感じます。

最近のミュージシャンって、ギター一筋でギターしか弾けないような方でも、録音ソフトをいじるだとか、宣伝の為にSNSをやるだとか、純粋に“弾くこと”以外のやることが多くなっている印象を受けます。ミュージシャンという仕事が“スペシャリスト”ではなく“ゼネラリスト”になっているというか。その最たるところが桜村さんのような方なのかもしれません。

桜村:そうですね。僕のようなスタイルってシンガーソングライターのやってることの発展系だと思うんですけど、そういう人は増えてますね。

僕は更に、最初にお話したとおり特定の楽器に執着がないので、その時気になったものをトコトン飽きるまで追求するんですよ。2〜3カ月毎日バイオリンを弾いているような日もあれば、ぱたっとやめて別のことをしはじめる、なんてことも結構あります。

どこまでしっかりそれぞれの楽器と向き合って何でもできるのか、っていうのが自分のアイデンティティになっている部分もありますね。他の似たような仕事をしている人と、自分との差別化になっている部分だと思う。

撮影:shimadamasafumi

——何でもできることがアイデンティティ、というのはまさに桜村さんを的確に表すフレーズだと思います。

桜村:DTM(デスク・トップ・ミュージック)が普及して、誰でも宅録出来る時代です。でもやっぱり、録音することに特化した良いスタジオで録音したほうが、当たり前に音は良いんですよ。いろんなものが手軽に出来るようになっていくなかで、僕が専門的にちゃんとできるようになっておいたほうがいいのは「設計図を書くこと」だと思ったんですね。

いくら自分がいろんな楽器が弾けても、自分より上手いプレイヤーがいるのなら、その人に頼むべき。でも、ちゃんと精密に設計図を書く為にはいろんな楽器の理解度、幅広い音楽の知識が必要なんですよね。

——桜村さんは今年、シグネチャーモデルのギター『虎徹-Kotetsu-』を発売されましたね。普通ギターは22フレットのところを、『虎徹-Kotetsu-』はなんと839mmスケールで29フレット。いままでにない画期的な仕様のギターで非常に驚いた方も多いかと思います。先ほどのお話のように、幅広い音楽の知識を持ってギターという楽器を見ている桜村さんだからこそ、生み出せたギターなのかなと感じました。

桜村:ギタリストとしての桜村眞に求められているモノを詰め込んだ、僕らしい楽器になりましたね。『虎徹-Kotetsu-』はまず、フレットの数が多いので出せる音域が広い。全部の弦のデフォルトのチューニングが2音半下げになっており、カポを使ってチューニングを変えることを推奨しているので、ギターを持ち替えなくてもさまざまなチューニングを瞬時に行えます。

もちろん出せる音色も幅広いです。僕は昔、ギターの講師をやっていたことがあるんですが、「ギター教育上、ダウンチューニングってどうなんだろう?」ってずっと思っていて。