「空間・レイアウト」へのこだわり、その理由は?

――『映像研~』アニメ3話で、金森氏が倒れたハシゴをかけ直した後、浅草氏と水崎氏はすでに雨どいで降りていたというカットがありますよね。

大童先生は、原作のあのカットに手前にわざわざ細かいフェンスを描いておられます。

さらにフェンスに穴を開けて、そこに浅草氏、水崎氏、金森氏を描いて視線誘導をしているんですが、あんな細かいフェンスをわざわざ描いてまで空間を作ることにこだわるんだなと思いました。(1巻95P)

大童:「わざわざ」という気持ちは僕にはなかったんです。確かにあのフェンスを描くのは大変でしたけど、当たり前のこととして捉えていました。

あのカットは実写作品なら、近景、中景、遠景を作るためにフェンスの手前にカメラを絶対置くと思ったんです。

©2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

ただ、僕はデジタルで描いていますから、ここでフェンスのテクスチャを作ってしまえば、後々流用できるとは思っていたんです。

でも、穴を開けてしまったので、もし流用させると、どこのフェンスにも同じ箇所に穴が開いていることになってしまうので、結局使っていません(笑)。

僕は、基本的に「どこから撮るか」を考えています。それにできるだけ絵によって表現したいと思っています。

漫画は文字と絵のハイブリッドであることが強みですけど、吹き出しの台詞で説明しすぎると小説と変わりませんし、可能な限り絵で表現したいんです。

――その空間へのこだわりは、宮崎駿監督などの正確なレイアウトに影響を受けた結果なのですか。

大童澄瞳先生

大童:それもありますが、最初にレイアウトの重要性を意識したのは、りょーちもさん(『夜桜四重奏 〜ハナノウタ〜』監督・キャラクターデザインを担当)のHPを観た時です。

もちろん、そこにこだわる原点には宮崎監督の『未来少年コナン』や、『交響詩篇エウレカセブン』の存在があると思います。

『エウレカセブン』4クール目のエンディングクレジットにアニメーションの絵で描いた戦場写真が連続して出てくるんです。その写真には、本編で登場しない、戦場に生きた名もなき人々がたくさん写っていて、それにすごく衝撃を受けました。

カリカチュアされたアニメーションのキャラクターなのに、写真として描くことで“これは現実にあったことなんだ”と感じられたんです。

それから、自宅にロバート・キャパの写真集があったのでそれを見たり、宮崎駿監督の作品や吉田健一さん(『エウレカセブン』のキャラクターデザイン・メインアニメーターを担当)のHPの絵で学ぶなど、いろんな写真や映画の良いレイアウトを見て学びました。

最近だと『英国王のスピーチ』を観て素晴らしいレイアウトがたくさんあるなと思いました。どのカットも、平面の図形としてのレイアウトと、自然な空間を生み出すレイアウトがすごく良くできているんです。

アニメ版を観る際の注目点は?

――『映像研には手を出すな!』TVアニメの放送が始まって、周囲の反応はいかがですか。

大童:友人も知人も少ないんですが、聞くところによれは知人たちの周囲でも好評だということで、直接の知り合いの先にまで広がっているんだなと実感しています。

――『映像研~』TVアニメ版を観る時、どんな点に注目していますか。

大童:原作にない、TVアニメで追加されたシーンでどんな表現をしているか、という点は特に注目しています。

細かい文字情報など気になるところは一時停止しながら観て、いち視聴者として細かいところまで楽しんでいますし、細かいアニメーションの動きも注目しています。