日本に居ながら台北ディープ・ゾーン歩いた気分に
艋舺はかつて赤線地帯としても有名だった。今は飾り窓のようなあからさまな店はないが、それでも路地裏を歩いているとそれらしい「理容店」や「茶館」、その周りで客待ちするストリートガール風の女性を見かける。
主人公の高校生が初めて売春宿を訪れ、娼婦と恋仲になるシーンは、殺伐とした物語に甘酸っぱさを添えている。
『モンガに散る』のもうひとつの楽しみはボーイズラブ疑惑。
男どうしの友情っていいなあ、と思わせるシーンがたくさんあるのだが、モンク(イーサン・ルアン)と呼ばれる若者はどうも女性に興味がなさそうで、義兄弟であるドラゴン(リディアン・ヴォーン)に向ける視線がどこか悩ましい。
描写が曖昧とはいえ、民俗的多様性や性的多様性を認め、LGBTに大らかな台湾ならではの設定だ。
この映画では、ヤクザの縄張り争いを通して台湾の民族的葛藤も垣間見える。艋舺は本省人と呼ばれる戦前台湾に移民した人々が暮らすエリアだが、そこへ外省人(日本の敗戦後、蒋介石が大陸から率いてきた人たち)というよそ者が入ってくる。
本省人ヤクザが話す台湾語と外省人ヤクザが話す北京語の雰囲気の違いなども聞き分けられたらおもしろいだろう。
また、日本の桜に憧れる主人公の心象風景の描写も、本省人の日本に対する複雑な感情を表していて興味深い。
戦前は日本人に、戦後は中国人に翻弄された台湾人の苦悩をところどころで垣間見ることができる。
ヤクザ映画なので、目をそむけたくなるような激しいシーンもあるが、乱闘や果し合いの場面の背景にムードのあるホーンセクションの曲が流れたり、売春宿で主人公と娼婦がエア・サプライのヒット曲を聴いたりするシーンが、一服の清涼剤となっているので、最後まで心地よく鑑賞できる。
台湾ロスを補って余りあるこの作品、ぜひ観ていただきたい。
(つづく)