大槻貴宏(ポレポレ東中野代表)

オンライン上映だからこそできること

── そして、8月1日には、本作『なぜ君は総理大臣になれないのか』のオンライン上映も決定しました。

大槻 『なぜ君は総理大臣になれないのか』を配信でやらないかっていう話は、結構前から出ていたんですよ。

ただ、僕がもうひとつやっている下北沢トリウッドで6月5日から公開した『ドロステのはてで僕ら』のときにやったような、公開初日合わせてのオンライン上映という形ではなく……その後、おかげさまで公開規模も拡大して、まだ公開しているところもあるわけで。

そういう中で、どういう理由付けでやろうかなとは思っていて。実際、どの映画館も、客席が半分とはいえ、ちゃんと入っているんですよ。

それで考えたのが、「たくさん入っているんだから、さらに多くの人に観てもらおう」っていうことだったんです(笑)。

東京はともかくとして、映画館がない地域もあるだろうし、拡大上映と言っても、すべての都道府県で観られるわけではないので、そういう人たちにも観ていただく機会を、今回のオンライン上映という形で作りましょうと。そして感想はSNSに上がり、宣伝になるだろう、と。

あと、もうひとつ配信の強みというのは、バリアフリーだと僕は思っているんです。身体が悪くて劇場に足を運べなかったり、やっぱりこういう状況なので、劇場に行くのは、まだちょっと心配だという方々も、配信だったら観てもらえるじゃないですか。その2つの理由で、今回オンライン上映をやりましょうということになったんです。

── さらに、今回のオンライン上映のあとには、本作の主人公である小川議員と大島監督、さらには映画の中にも登場する田崎史郎さんと、朝日新聞の記者である鮫島浩さんによるスペシャルトークも予定されています。

大槻 そうですね。そういうものは、本来だったら映画館でやるものなのかもしれないし、実際に舞台挨拶的なことは、これまでも積極的にやってきたんですけど、自分の中ではいつも、ちょっとモヤモヤしたものが残っていたんですよね。それを観てもらうのは、映画館にきていただいた人たちだけで本当にいいのか?っていう。

もちろん、その現場にいたという「体験性」みたいなものは、すごい大事だとは思っているんですけど、それと同時に、こういう場所を、どこかで解放したいとはずっと思っていたんです。で、これは逆にいいチャンスじゃないかと。

『なぜ君は総理大臣になれないのか』 ⒸNetzgen

今回の配信は「トークイベント自体も面白くする!」

── ポレポレさんは、舞台挨拶を積極的に行っている劇場としても知られていますが、最近の舞台挨拶は、単なる「挨拶」ではなく、トークイベントやティーチインに近い内容のものも多いですよね。

大槻 そうなんです。その映画のガイドになるものというか、そういうのがあってもいいなっていうのは思っていて。

今回の配信についても、大島監督は、作品だけでいいんじゃないのかと思っていた時期もあったみたいですが、最終的には「トークイベント自体も面白くする!」っていう事になり。

やっぱり、観たあとに疑問というか、「あれは何だったんだろう」とか「これはどういうことだったんだろう」とか、いろいろ知りたくなる映画ってあるじゃないですか。で、それは、誰かが、理想は作り手なのですが、引き受けられるといいな、と思うんです。

もちろん、映画を観た人が、家に帰って自分で調べて、より深く理解するのが理想なのかもしれないですけど、その作品の見方や考え方みたいなものを少しアシストするだけで、その映画の理解度が全然違ったりすることって、やっぱりあると思うので。なので、何かそういうことが、今回のオンライン上映でもできたらいいなと思っているんですよね。

── 特に『なぜ君は総理大臣になれないのか』は、観たあとに、さらにいろいろ知りたくなる、語りたくなるような作品ですよね。

大槻 そうなんですよ。今回のトークイベントは、映画の主人公である小川議員はもちろん、監督の大島新さんに加えて、映画の中では、ある種、悪役のようになっていたジャーナリストの田崎さんと、それとはまた逆の意見を持っているであろう朝日新聞の鮫島記者にもご出演いただくので、かなり面白いものになるんじゃないかと思っています(笑)。

── ちなみに、こういったオンライン上映の試みは、今後も続けていく予定なんですか?

大槻 そうですね。オンライン上映は、コロナ禍に関係なく今後もやっていくと思います。

今は客席が半分じゃないですか。で、このあと、「いつ戻すんだ?」みたいな話になっていくわけですけど、戻したところで変わらないというか、元と同じ状態には、きっとならないと思うんですよね。

戻していきなり満席になるっていうこともないでしょうし。というか、となりの席に人がいない快適さに、みんな気づいてしまったわけで(笑)。

── そうなんですよね。あまり大きな声では言いにくい話ではありますが、それはそれで快適なんですよね(笑)。

大槻 快適なんですよ(笑)。快適なところを、わざわざ以前の状態に戻していくのかっていうと、多分戻らないと思うんですよね。以前の状態に戻るわけではないというか、戻るためには、人の気持ちそのものを変えなくちゃいけないので。

そう考えると、より快適かつセーフティに映画を観る事がポイントになっていくだろうし、舞台挨拶のような、これまでクローズドだったものを、どういうふうに開放していくかも考えていかなくてはならない。今はそうやって、今後に向けた新しい取り組みを考える時間だと思うんです。

そういう意味でも、本当の勝負は今ではなく、もっと先にあると思っているんです。