何事も出来るように努力することが自立ではない。分からないことを正直に言えることが重要
Chacco:なるほど。そういったものなんですね。
これまでたくさん立石さんの著書やブログを拝見してきたんですが、全て包み隠さず、伝えていますよね。その想いが人との繋がりや息子さんのサポートへと広がったんだろうなと思います。
立石:発達に偏りがある子どもって、要はできることに限りがあるわけですよね。何事も努力して、出来ないことを出来るように克服させることが自立じゃなくて、できないこと、分からないことを正直に言えることが重要だと思うんです。
息子の場合は、なかなか計算ができなくて、買い物なども心配だったため、お金の数え方を教えたり、カードで学ばせたりしていたんですが、中学の担任の先生が「『できないんです、助けてください』って言えば、周囲の人に助けてもらえるし、教えたい人の貢献欲も満たされるから遠慮せずにお願いすればいいんだ」よって教えてくれました。
時計を読めるようになるのも時間はかかりましたが、今は時刻表を見て自分で出かけるようになりました。でももしわからなかったら「僕は字が分からないので教えてください」と言えばいい、出来ないことに対して、親も子どもも人に頼ることを恥ずかしいって思わない方がいいですよね。
Chacco:確かに時計は鬼門ですよね。私も、助けを求めたときに、助けてあげたいって思ってもらえるような、味方がたくさんできるような子になって欲しいです。そして私自身も、周りをうまく頼って、優しくしてもらった分をまた循環させられるようなお母さんになることが目標です。
立石:例えば、我が家は何かとお世話になることが多いので、マンションの管理人さんには、息子の障害のことも最初から伝えているんです。
先日も息子がパニックを起こしてマンションの共用部の壁を傷つけてしまい、住人の方から指摘があったんですが、管理人さんから「事情を私から取り合えず説明しておきましたよ。マンションの保険でカバーしますから大丈夫ですよ」って言ってくださって。ワンクッション置いて、後でお詫びに行きました。
あと、息子は食物アレルギーも抱えていて、何か私がいない間にアレルギー反応が起こり始めたら「エピペン注射をしてから、管理人室に飛び込みなさい」って話しています。ちょっとしたことでも頼れる環境や気にかけてくれる人の存在には救われていますね。
言葉とコミュニケーションが取れるのは別物。一人でいるのが好きな子どもならそれでいいんじゃない?
Chacco:“ここは安全”って思える場所があるといいですよね。うちの息子は2歳半ごろまで言葉が出なかったので、今になってみると「言葉が出ないことによるフラストレーションがこんなにも強かったんだな」ってことを実感しています。
今もすごく饒舌にしゃべるわけではないんですけど、保育園でこんなことがあったって教えてくれたり、先生やクラスメイトから息子のことを教えてもらったりすると、心がホッとします。
立石:ただ、私も気を付けないといけないなと感じるのは、言葉を獲得することとコミュニケーションはまた別物ということです。
リンゴの銘柄を全部言えるようになっても、私の息子は「ねえ、お母さん、このリンゴ美味しそうだね」と言ってくれることはない。彼はその言葉が必要ない世界に住んでいるのだから、それを求めるのは私の思い込みなんだって。
コミュニケーションにおいては、自分の要求や、助けてっていう呼びかけや最低限の挨拶ができれば十分なんですよ。
行動にしても、友達と遊んだら楽しいのに、とか一緒に遊びに行ける友達を作ってあげたいとか思ってしまうかもしれませんが、私たち自身の感覚だけで共感とか、何かを一緒にすることを押し付けちゃいけないんだなって思います。
Chacco:私自身も集団行動が苦手で、修学旅行の班決めがイヤだから行きたくない!って親を困らせてしまった経験があるので、理解できます…。自分自身は1人でいるのが好きな子どもだったのに、親になると子どもに集団行動を求めてしまうんですよね。支援として周りに人がいてほしい、って言うのと、人気者で仲間がたくさんいるっていうのは別物なんだからって心に留めておく必要はあるかも。
立石:一方で、障害のある子のなかでも、言葉は出なくても、顔つきや手ぶりでコミュニケーションが取れるタイプの子もいて、障害の有無にかかわらず個性は様々なんですよ。実際、息子にもウマの合う子がいるんですけれど、やり取りを客観的に聞いていると全然話題がかみ合っていないんですよ!でも何となく気が合って、通じ合っているみたいなので、一緒に居て、お互い自分のペースでいられたら、心地いいんだなって気づきました。
例えば、アリを見ているのが楽しい子どもに、「お友達のところに行ってみんなで一緒にお山を作りましょう」なんて声がけはしなくていいんだと思いますよ。
<まとめ>
対談の中で、周囲に頼ることや助けを求めることの重要性を繰り返し強調していた立石さん。子どもの年齢や、子どものあるなしに関わらず、他人にうまく頼れるということは、孤立せずに社会生活を営む上でも非常に大切なポイントかもしれません。
立石さんの経験に根差した言葉の数々に、たくさんの気づきを得られるひと時でした。
子育て本著者・講演家。20年間学習塾を経営、現在は著者・講演家として活動。自閉症児の母。著書は『1人でできる子になる テキトー母さん流 子育てのコツ』『はずれ先生にあたったとき読む本』『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』など多数。
大手出版社から単行本を数冊発表し、現在は休業中の(元)漫画家。アシスタント業をメインにしながら、主婦業とお母さん業でも大忙しの毎日。夫である鈴木妄想とオタクトークで燃え上がるのも日課。息子の笑顔と各国アイドルのPVを見て癒されている。