心理学では人間の知能を説明するとき、「結晶性知能」と「流動性知能」の2つを示すことがあります。「この“隙の糸”は結晶性知能といえる」と井島さん。

「結晶性知能」は説明できないけれど出てくる答え。年齢を重ねることで増え、幾つになっても維持することが可能だといわれています。問題解決のためにこれまでの経験や文化の影響を受けて知識を応用させるというものです。

「流動性知能」はいわば適応力で、情報を処理したり、計算する力など。若者の方が優れているとされています。

この隙の糸をめぐる一連のエピソードから得られる教訓は、忍耐、我慢、努力は決して無駄にならず、乗り越えた者にしかわからない「特別な感覚」、問題を解決する能力を身につけられるということです。

たくさんの学びと経験などから発達していく結晶性知能は、高めれば高めるほど失敗は減り、ものごとがうまく運ぶようになります。強い自分をつくる大きな武器になるのです。

出典(「『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方」)

強い人がやっている自分を強くする習慣

井島さんが分析する“自分を強くする習慣”をいくつか挙げてみましょう。

1 目の前の課題に素直に取り組む

炭治郎が強くなれた秘訣はばか正直と言っていいほどの素直さがあると思います。先入観やバイアス(偏見)がありすぎると、物事に素直に取り組めません。楽しいか楽しくないかはやっていてから判断すればいいのです。

出典(「『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方」)

2 自分で考えるというスタイルを確立させる

ある時から炭治郎も大きな岩を斬るために自分で考えることを課され、そこから大きく能力を飛躍していくことになります。

自分で考えなければ真の答えに辿り着くことはできないのです。
人間は誰かに何かを教えられながら成長するものですが、いつかどこかで自分で考える必要に迫られる時があります。誰も教えてくれない。自分で答えを導き出さねばならない。そんな局面は誰にでも訪れます。

出典(「『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方」)

3 状況打破のために創意工夫する

‘下弦の壱の魘夢(えんむ)’に血気術で眠らされてしまった炭治郎は、術を解いて目を覚ます方法を夢の中で考え抜き、「夢の中の死が現実の目覚めにつながる」と結論づけて 自らの頸(くび)を斬り、見事に目覚めることに成功しました。

また、‘上弦の陸の妓夫太郎(ぎゆうたろう)’に絶体絶命の状況に追い込まれた時も、あえて言わせ放題、やられ放題の状況をつくって相手を油断させ、一瞬の隙をついて反撃。大逆転で頸を斬り落としてみせました。

どんな状況になっても、ピンチに陥っても、あきらめずに突破口を探して創意工夫する。そうすれば道が大きく開け、もっと強くなれる。炭治郎は、そのことを明確に示してくれています。
自分なりに色々と工夫して試すことができるかどうかが、強くなれるかどうかの分岐点にもなります。

出典(「『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方」)

理不尽さや逆境は現代でも同じこと、だからこそ「ブームは必然だったのではないか」と井島さん。

「大人も子供もみんなが誰かに教わりたかった、強く生きるための教えがこのマンガには詰まっていると考えます。だからみんなの心に刺さり、みんなを熱くさせるのではないでしょうか」と話します。

いつも同じ問題でモヤモヤしていたり、理不尽な現状があって、「自分が強くなるしかない!」と感じていたら、炭治郎の生き様が助けになるかもしれません。

【著者】井島由佳(いじま・ゆか)

大東文化大学社会学部社会学科助教、心理・キャリアカウンセラー
1970年東京生まれ。東京家政大学大学院家政学研究科人間生活学専攻修了。博士(学術)。
専門は教育心理学、キャリア心理学。
キャリアデザイン、チームビルディング、メンタルヘルスなどの専門家。
自治体や企業等で研修講師を務める。キャリアカウンセラー養成講座を長年担当。大学のキャリアセンター長として、学生の就職支援も行った。
中学生・高校生・大学生・社会人にキャリア教育を展開。
大学では、心理学・教育心理学・行動分析学・キャリアデザインなどを担当。プログラム開発も行っている。マンガを使った講義・研修・セミナーが人気。

美容ライター。美容誌の編集を経て、ビューティ&ヘルス、フード、ファッション、ナチュラルライフなどについて執筆。美容ブログ『SimpleBeauty』でもコスメ情報を更新中。WebメディアのほかHP,紙媒体も手掛けています。