台北のディープな下町、艋舺(萬華)Webツアーの5回目は、さらに艋舺夜市の奥深くへと踏み込み、昼とはまったく違う表情を楽しんでみよう。
艋舺の夜と朝
台湾には、昼間はまったく違う顔を持つ夜市が少なくない。
士林夜市や寧夏夜市といった人気の夜市も日中は屋台が閉まっていて、駐車場になっていたり、または朝から昼にかけて別の屋台が店を出していたりする。
艋舺夜市のある廣州街や梧州街も、朝はがらんとしていて人通りが少ない。新宿歌舞伎町で飲んで夜明かしして、カラスが道端の残飯をつつくのを横目に新宿駅方向に歩くと、明け方までのよどんだ空気はどこへやら。
やけに風が気持ちよく、少々後ろめたい、いや、背徳の喜びで満たされる。艋舺の朝にも、どことなくそんな気まずい快感がある。
幻の牛肉スープ
夕べの喧騒は夢だったのでは? そんなふうに思えるくらい、朝の艋舺は人もクルマも少なく、空気が澄んでいる。
夜は怪しく見えた路地に朝日が差し込んで、道端に転がった酒瓶が恥ずかしげだ。
お腹を空かせてうろつく野良犬の姿も見かけるが、台湾の野良犬はあまり血の気は多くないのでそう心配しなくていい。
そんな静かな艋舺の朝に週に2〜3度だけ営業する牛肉スープの屋台がある。いつ営業するかは店主の気分次第なので、狙い撃ちができない。めぐり逢えたらラッキーだ。
艋舺夜市(廣州街夜市とも呼ばれる)が出る廣州街と梧州街が交差する地点、つまり艋舺夜市のど真ん中で、早朝から午前10時くらいまで屋台が出る。開いていればすぐにどこからか客がやってきて、たちまち満席になる。
柔らかく煮込まれた牛バラ肉と、白い大根と赤いニンジン。具はこれだけ。
透明なスープは見た目よりもしっかり味がついているが、朝ごはんにちょうどよく、後口もよい。7、8時間前の夜遊びの罪滅ぼしのような食べ物だ。
歌舞伎町辺りにも、こんなやさしい朝ごはんがあるのだろうか。一度、外国人のような目線で探してみたい。
緑豆のヘルシードリンク
幻の牛肉スープの屋台のある交差点付近には、夕方から夜まで私の大好きな緑豆湯の屋台が出る。緑豆湯とは緑豆をやわらかく煮て砂糖を加えた汁粉のことだ。
『阿嬤的古早味緑豆湯』(おばあちゃんの昔なつかし緑豆湯)という名前で親しまれている小さな屋台は、夏は冷たい緑豆スープ、冬は温かい緑豆汁粉を出してくれる。どちらも柔らかく煮込まれた緑豆がほのかに甘い。
緑豆湯は、艋舺夜市で買い食いをしたり、梧州街でビールを飲んだりした後の口直しには最高のチョイスだ。
おばあちゃんはお年のため、今は息子さんが屋台に座っていることが多い。台湾には2世代、3世代にまたがって経営している飲食店が珍しくない。
大型レストランよりも、かえってこういう小さな屋台や食堂のほうが、次の世代が育つような気がする。間近で親や祖父母の働く姿を目にするためだろうか。