カラフル ©2010 森絵都/「カラフル」製作委員会

――次の作品が『カラフル』となりますが、そういったこともあって、シンエイ動画の外で作ろうと思われたのですか?

:いえ、『河童のクゥと夏休み』ができたら本当に辞めようと思っていたんです。

――それは作る前から?

:もしこれができたら辞めようと思っていたし、『河童のクゥと夏休み』が作れるか分からない時期に、『カラフル』の話をサンライズからもらっていたんですよ。だからもし『河童のクゥと夏休み』の企画が成立しなかったら、辞めてすぐに『カラフル』をやろうと思っていた。

だけど作れることになって、その間、話を持ってきた内田健二さんという後にサンライズの社長になる人が、ずっと待ってくれていたんです。それで『河童のクゥと夏休み』が終わって、辞めて『カラフル』をフリーでやります、という流れができたんですね。

――逆にもし『カラフル』という作品がなかったら、辞めることはなかったのでしょうか。

:いやいや、もう辞めようと思っていました。シンエイ動画が独立したプロダクションではなく、テレビ朝日の子会社になるっていうのがわかっていたので、もういいかなと思ったんです。これ以上やりたいものはできないと思ったし、『クレヨンしんちゃん』を長くやって、『河童のクゥと夏休み』もシンエイ動画だからできたと思ってはいるんですが、会社のスネはだいぶかじったので。

――『カラフル』も劇場で拝見させて頂きまして、僕はアニメ映画の中で「一番リアルな作品」だなと思ったんです。

リアルだと感じたのは、背景が実写的だということだけじゃなくて、登場人物たちが傷つきながらもがいているところ、そういう中で友達ができて、ギスギスしてしまった親子関係が少しずつ修復していく、そういうところが自分の生い立ちも含めて共感できたというか、肯定されたような気がしました。自分の中に沸き立ってきたものと映画がリンクした時に、リアルな映画であると感じられたんです。

よく映画ファンは「これは映画である」「これは映画じゃない」と感覚的に話すことがありますが、僕は上映された作品のフィルムそのものが映画というわけではなく、観た人が感じたものこそが「映画」なのではないか?と考えています。監督ご自身は「映画」というものを、どうお考えになっていますか?

完璧な作品は、たぶん面白くない

:そういう質問を時々されるので、普段あんまり考えないでやっているんですけれど、聞かれるたびに考えています。

何となく自分の中でこういうことかなと思うことは、彫刻に例えると、見た目が完璧な作品は、たぶん面白くないんですよ。何かが欠けていて、どこかがいびつになっている。それが何故欠けているのか、何故いびつなのか? そこが魅力になっているような気がするんですよね。

アニメーションなんかは作り方として、足し算で作るものだと思うんですけれど、(絵を描きこむなど)果てしなく足していけばよくなるかと言ったらそんなことはなくて、実はあえて説明をしないでシーンをジャンプさせたりして、観た人の想像力を刺激することも多いと思うんです。まあ、僕が好きな映画はそういう映画が多いなと。

映画は大勢で作る作品ですけれど、みんながどこから見ても完璧なシナリオができたからといって、それをそのまま映像にしてもたぶん面白くないんですよ。説明も完璧、伏線もばっちり回収されているとかね(笑)。それってたぶん面白くない。やっぱり監督がどこかで頭おかしくなった方が面白いんですよ。

――先ほどおっしゃっていたように、不格好な方が魅力が出るというのは、『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』の中でもキャラクターの台詞として出てきます。そこは意識して演出されていたのですか?

百日紅~Miss HOKUSAI~ ©2014-2015 杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会

:『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』に関しては、登場人物のキャラクターは杉浦日向子さんの作ったものを、そのまま映像化したんですけどね。それに僕なりのオリジナルの要素をプラスして。

杉浦さんは僕からすると間違いなく天才なので、もし杉浦さんが生きていて映画を観たときに、違和感がないキャラクターにするというところで一番悩みました。でも終わってみたら、僕としては杉浦さんに自信を持って観てもらえる作品になったと思っています。