『ロマンス暴風域』(扶桑社)鳥飼茜

鳥飼先生の担当編集の高石さん:すみません。ちょっと口を挟みます。僕もいろいろ恋愛に関して取材してきたのですが、仕事か恋愛、どちらかで満足しなきゃいけないとなって、仕事がうまくいかなくなった場合、ヤリチンに走る人がいます。

仕事ができる人はヤリチンが多いと言う人もいますが、それもなんか違う気がするんです。あと、モテてこなかった男性がもう一花咲かせようというのはよく聞きます。

経験人数が足りていない人っているじゃないですか。だから、「あの時ヤれたかも」とか、数的にもう少し自分はイケるはずだとか思ってしまう。

鳥飼:「モテてこなかった」と言うけど、別にモテたかどうか、数に達しているかどうかは全然関係なく、その人の中で「もっとイケたはず」みたいなのがあるんじゃないですかね。

——仕事でうまくいった男性はヤリチンにならないという高石さんの説ですが、ちょっと疑問に思います。

だって、地位や肩書のある男性に女性は群がるわけですよね?

鳥飼:そう、寄ってくるんです。芸人やバンドマンのような人たちは、可愛い子が向こうから「抱いてください」とやって来るんです。彼女いないし、今日は寂しいなと思ったら、まぁ抱くでしょうね。

女性が寄ってきて選べるんですもん。でも、そこは女性の私には究極的に分からないところです。

もし、私が漫画家としてめちゃめちゃ売れて、男の子のイケメンのファンがたくさん寄って来たとしても抱けないです。挿れる方じゃないし、知らない相手だから怖い。

不特定多数の男性がわ〜っと寄ってきて「じゃあ、今日はあなた、ヤりますか?」とはなれないですよ(笑)。

今まで、なんで創作活動をしている男性にヤリチンがいるんだろうと思っちゃっていましたが、来るものはしょうがないし、断る方が労力がいるのかなと思い始めました。

男性に優しくしてもらえたら、できる範囲で返せばいい

——たくさんの女性とヤりたい男性とそうではない女性、このすれ違いを埋めるにはどうしたらいいのでしょうか。

鳥飼:すれ違いは分かり合えないですし、分かり合う必要がない気がします。ただ、男性はそういう部分があるんだと知っていきますよね。

鳥飼茜先生

——結局、男性は女性とヤれるかもしれないから優しくするという面があると思います。そういう心理を知るとガッカリしてしまうのですが……。

鳥飼:その優しさが性欲発信の部分が大きいかもしれないと思っても、「ただヤリたいだけでしょ!」と思わない方がいいです。

優しくしてくれたことに変わりはないのだから、感謝すればいいと思います。

だからと言って、優しくしてくれたからヤらなきゃいけないということはないです。優しくしてもらったことに対して、こっちはこっちのルールでできる範囲のことを返せばいいんです。

——なるほど。でも、男性は射精できればいいというのが少なからずあり、女性はセックスよりもその前後の優しくしてもらえる時間を好む傾向がありますよね。

鳥飼:最近、それも怪しいなと思い始めてきました。男性は射精が目的なら一人でやった方が早いので。それで、女性は「何回目のデートまではヤらせない」と、自分の性をダシに使っているわけです。

それって結局承認欲求なのではないかと思い始めて。男女共に、性欲よりも承認欲求の方が大きいのではないかと。

女性の中には、男性に体を求められる程度には自分に魅力があるといった、承認欲求のためにセックスをしている場合が多々あるっていうのは前々から感じていました。

でも、最近は男性も同じなのではないかと思い始めたんです。さっき言ったように「ここで女を落とせる俺!」とか「こんなにキレイな女に『ヤってもいいよ』と言われた俺!」とか男性は思っている。

それに対して女性も『愛されている私!』となって、みんな自分のためにセックスをしていることが結構多いなぁと。本来的な性欲同士のぶつかり合いでセックスという試合をしていることの方が少ないのではないかと。みんな、承認欲求をセックスにぶつけている。

私が(この間まで連載していた)「先生の白い嘘」という漫画で一番描きたかったのは、性暴力をする人は性欲ではやっていないということです。

支配欲とか征服欲とかは、結局承認欲求みたいなものです。性欲のせいにするということから一歩先のことを考えたかったんです。

本当に恋愛が好きで恋愛をしている人はとても少ないと思います。「みんなやっているからやらないと」とか「そろそろ結婚しないとまずい」といったノリで恋愛をしているので、みんな下手くそですよ。

——鳥飼先生は上手なんですか?

鳥飼:下手です。私は恋愛に向いていない! 承認欲求の塊です(笑)

■鳥飼茜(とりかいあかね)
1981年、大阪府生まれ。漫画家。2004年「別冊少女フレンドDXジュリエット」でデビュー。著書に『ロマンス暴風域』(扶桑社)、『先生の白い嘘』(講談社)、『鳥飼茜の地獄でガールズトーク』(祥伝社)、『地獄のガールフレンド』(祥伝社)など。