「どんな人間になるべきか」はなんとなく教えることはできても、もし子どもに「どう生きるべきか」と生き方を尋ねられたら、すぐに答えることは難しいのはないでしょうか。
そんな中注目を集めているのが、『漫画 君たちはどう生きるか』という1冊の本。第二次世界大戦前、1937年に出版された吉野源三郎のベストセラー小説『君たちはどう生きるか』を漫画化したもので、売り上げが50万部を超えるなど今や社会現象とも呼べるまでになっています。
その魅力はどこにあるのか? 同書の制作を担当された漫画家の羽賀翔一さんにお話を伺います。
身近な問題との向き合い方を教えてくれる
今回の漫画化にあたり、初めて原作を読んだという羽賀さん。実際に本を読んでみて、80年前に書かれた本であることに驚いたといいます。
羽賀翔一さん(以下、羽賀)「感覚として非常に今っぽいところがありますし、普遍的なメッセージが込められている作品だと思いました。
コペル君(主人公)というキャラクターも、とても子供らしいというか人間らしいというか、無邪気に何かを学んでいく姿勢を持ちながらも、大きな過ちを犯してしまう。
そこからどう立ち直るか、どう自分と向き合うか、ということが描かれています」
物語は、父親を亡くした中学2年生の“コペル君”と、母方の“おじさん”との精神的交流を中心に描かれます。
学校でのいじめや貧困といった身近な現実に直面し、物事の本質を深く考え始めるようになったコペル君に対して、おじさんは1冊の「ノート」を通してさまざまなメッセージを伝えます。
いわばおじさんは、コペル君のメンター(人生の助言者・指導者)のような存在。
社会の中での人間の役割や、人間同士のつながりなど、「どう生きるか」を考えるうえで手助けとなるような“ものの見方”を教えてくれます。
羽賀「最初は、『コペル君』に感情移入しながら読んでいきました。でも読み返すうちに、『おじさん』はどんな気持ちでこの言葉を伝えようとしているのかなど、何度も読むことで何層もの読み方ができる。
だから漫画化するにあたっても、ただ概要だけを伝えるような、よくある『10分でわかる』といったものではなく、しっかり漫画としておもしろいものを作ろうと。何度も繰り返し修正して作り込みました」
では、どんなヒントが描かれているのでしょうか? 同書より印象的な場面をご紹介いただきました。