アニメーターが育っていた時代のスタジオを再現する
――「アニメミライ(旧 PROJECT A)」は公募による4作品を選んでいますね。その選考の基準はどんなものがあるんですか?
佐伯 どんな作品が応募されるかによりますね。その都度、その都度、選定・評価選考委員の方々と真剣に議論しながら、というのが実態です。もちろんクオリティが高そうなものや、教育についてきっちりとしているものが注目を集めますが、これといった基準はないですね。
桶田 初年度(2010年度)は16作品、2年目(2011年度)は11作品、3年目(2012年度)は18作品の応募がありました。
基本的なレギュレーションは公開されている通りですが、最終的には外部の選定・評価委員の方々が決定しますので、それぞれの方々の視点や立場から検討されています。選定・評価委員がプロデューサーの方であれば企画の面での魅力を重視されますし、アニメーターの方々は作品内容がアニメーターの育成に適しているかを重視されています。また、皆さん選ぶ作品が4作品ということで、その作品の並びみたいなものも考えていらっしゃるようですね。
佐伯 並びはありますね。でも、おのずとバラエティが豊かになっていますよね。結果論として、すごくバラエティに富んだ作品が選ばれていると思います。
桶田 レギュレーションについて解釈が揺れたときに、こちらから意見を申し上げることはありますが、JAniCAも文化庁も企画選定には基本的には介入しません。
2011年度は「しらんぷり」のような作品があって、アート系に近づいているなどと言われましたし、2012年度は商業的な作品が多いと言われたりもするのですが(笑)、別に誰かが強い舵を切ったつもりはないんです。
佐伯 自然とそうなったんです。いつも私は申し上げているのですが、目的はあくまで若手アニメーターを育てることであって、極論ですが作品はあくまでその育成のプロセスを経た成果物なんです。作品は良いに越したことはないのですが、良し悪しは第一義的には考えていないんです。これはあくまで極論ですけれども(笑)。そこで育った人が次回作で腕を振るったり、講習会で出会った人たちと次の作品をつくる、そうやって次に続くことや次に続く場をつくることが大事だと思っているんです。
育った人が次を生み出すという、性善説に則ったプロジェクトなんですね。
――作品をつくる制作工程にレギュレーションは決めているのがとてもおもしろいですね。スタッフを3ヵ月拘束し、就労時間も朝9時ころから夜6時ころまでの間の8時間と決めていたり、海外の動画会社を使わず国内制作に統一するといったルールがこのプロジェクトの特徴だと思います。
桶田 それぞれのレギュレーションを策定した意図については、アニメミライのホームページにある計画書をご覧になると、そこにすべて詳細に記載されております。
要点をかいつまんで説明させていただきますと、1次目標は参加している若手たちを育成するにはどうしたらいいかということですね。今回は25名の若手が参加しています。彼らがしっかりした技術を身に着けるためには、教えてくれる先輩が身近にいて、ほかの作品と掛け持ちをするのではなく、しっかりと作品に打ち込む時間があるということが大事だと考えています。
言い方を変えると、「アニメミライ」のレギュレーションは、かつての東映動画(現・東映アニメーション)の現場を強制再現することを目標としています。書物などを読むと、「白蛇伝」「わんぱく王子の大蛇退治」や「太陽の王子ホルスの大冒険」といった作品をつくっていた現場は、監督から動画制作までがひとつのプロジェクトルームにいて、スタッフたちが議論や教育をしながらひとつの作品を企画から完成まで延々とつくっていたという記述があるんです。そのなかから宮崎駿さんや高畑勲さんが輩出されたわけですよね。
近年、制作能力の向上が著しいスタジオの代表格として、京都アニメーション(代表作「涼宮ハルヒの憂鬱」「けいおん!」)さんにヒアリングに伺ったことがありますが、彼らはそういったことがすでにできておられました。
そこで、選ばれた4作品をつくる4スタジオ、4人のプロデューサーをいくつもの作品制作に追われる日常から解き放ち、適正な環境で集中して作品づくりをすることで、悪貨が良貨を駆逐する状態を巻き戻すことはできないかと考えたんです。