アニメーションの業界全体を変えていくことが目標
――プロジェクトがはじまって3年目、まだ実績が出るには早い時期かもしれませんが、何か手ごたえを感じているところはありますか?
佐伯 まず自分の立場からひとつだけ言えることがあるとすれば、1年間の育成が終わり、その成果として作品が発表された、そこでプロジェクトは終了するんです。
ところが、アニメ作品はその後も作品が上映されたり放映されたり、Blu-rayディスクで販売されたりする。そうやってプロジェクトが広がっていき、こうやって取材を受けるまでになっている(笑)。こんなふうに我々が注目されていいのだろうか(笑)と。そういう広がりの大きさを感じているところです。
桶田 実績的な部分も去年(2012年)の7月に、初年度と次年度に参加した若手の方へ追跡調査を行っております。初年度と次年度で合計55名の若手の方が参加していらっしゃったのですが、その時点で業界を去った方は3名、52名は稼働していました。その中の3分の1は劇場版作品の作画監督補やTVシリーズの各話作画監督として活躍されているようです。
正直言いまして、比較対象がないものでこれが良い結果なのかはわからないのですが、まあ悪くはないだろうと考えております。
――参加スタジオの方から、反響をいただいたことはありますか?
桶田 私たちが申し上げたのでは信憑性を欠きますが(笑)、参加したスタジオの方からも「スタッフが見違えるように成長した」といったお話を伺ったことがあります。
あと今年の試写会のあとに、打ち上げの三次会があったのですが、仕上げのスタジオの若手スタッフの方から「去年参加できなくて悔しかった。参加したスタッフが上手くなっていてうらやましくて、今年こそ参加したいと思っていた。今年参加できてよかった」というご意見もうかがいました。
――今後の「アニメミライ」の展望をお聞かせください。
桶田 毎回20名~30名前後の若手を育成しておりますが、アニメーションの現場の全体状況を変えるに至るためにはまだまだ人数が少ないと思っています。蟷螂の斧かもしれませんが、毎年4社に参加していただくことで業界の意識や慣習そのものを変えていくことはできないかと考えております。そちらがむしろ本命かな、と。
佐伯 これは業界全体の問題なんですよね。アニメーションに力のあるうちに、自分たちで業界を支える力を持つということが大事だと思っています。こういうプラットフォームに参加することで、危機意識を持って行動していただくことが大事だと思っています。
――ありがとうございます。さて「アニメミライ2013」もいよいよ公開がはじまっております。今回はゴンゾ「龍 –RYO-」、トリガー「リトル ウィッチ アカデミア」、ZEXCS「アルヴ・レズル」、マッドハウス「デス・ビリヤード」という4スタジオ・4作品がラインナップしています。お2人の印象をお聞かせください。
佐伯 今回、4作品ともテイストが違うんですよね。ただ、プロダクション名を見ると、アニメをお好きな方だったら想像がつくんじゃないかと思うんです。その個性の競い合いがとにかく楽しかったです。
「リトルウィッチアカデミア」はこんなに動かすのか! と。アニメーションならではの実験精神がおもしろかったです。「デス・ビリヤード」はスリリングな一幕もののおもしろさがありました。「龍- RYO-」は時代劇なんだけど、これから何かがはじまるぞという予感を感じさせてくれました。「アルヴ・レズル」も続きが見たくなるつくりになっていましたね。
桶田 若手の原画マンの編成がそれぞれ興味深いんです。
ゴンゾさんには他社で経験を積んだ若手が結集している。トリガーは若手ですが、TVシリーズの各話作画監督経験もある若手を集め、吉成曜監督という凄腕のアニメーターが指揮している、いわばトップガンともいうべき状態、ZEXCSは若手と中堅の混成編成で挑んでいて、マッドハウスは6人中5人が初原画という新人中心の編成。
様々なチームが困難を乗り越えながら、あれだけの素晴らしい作品をまとめあげてくださった。その現場の力を感じてもらえればと思っています。
佐伯 アニメーションの作品の幅広さを私たちも再確認しましたね。
日本のアニメーションにはもともと力があると思います。才能を持つ人たちはたくさんいる。その人たちを元気づけるプロジェクトになれば良いと思っています。育成とは、これからも長く続けていかなくてはいけない仕事なので、実績も長い目で見ていきたいですね。
いま、TVシリーズや劇場版作品を手掛けるアニメーション業界はフリーランスのスタッフが主体になっている。作品ごとにスタジオにフリーランスのスタッフが集結し、作品制作が終わると解散するというかたちを取っているのだ。
1年間におおよそ200本といわれるTVアニメーション(放送本数)、50作前後といわれる劇場版作品(2012年は64作品)の中で、彼らは腕を磨き、成長していかなくてはいけない。「アニメミライ」のような試みが、フリーランスの若手スタッフの新たな土壌となり、梁山泊のように腕を磨く場になれば、アニメーションに大きな可能性を生み出すことだろう。
「アニメミライ2013」公式サイト [https://animemirai.jp/]