刺身横丁を抜けると「ジンミネ」が見えてくる

韓国への渡航が禁止になってまる2年。最近は日本の人たちから「ソウルが懐かしい」という言葉まで聞かれるようになってしまった。

そんなソウルの変化を伝えるコラムの3回目は、手頃な値段のホテルも多く、明洞や東大門、漢江の向こうの江南にも行きやすい忠武路駅前から北にのびる仁峴市場(インヒョン・シジャン)を歩いてみよう。

フォトギャラリー韓国ソウル「広蔵市場」屋台街の美味しそうなメニューを写真で見る
  • 広蔵市場の名物のひとつ麻薬海苔巻き。タクアン、ニンジン、ホウレンソウなどを巻いたシンプルなものなのだが、病みつきになる味
  • レバ刺しとセンマイの盛り合わせ(約1500円)
  • ユッケ(200グラムで約1700円)は、下に梨を切り刻んだものが敷かれている。この二者も相性抜群
  • 海鮮鍋の店先で火にかけられている鱈と白子の鍋
  • 丸いピンデトッは食べやすいよう半分に切って出してくれる。タマネギの醤油漬けといっしょに食べると旨い
フォトギャラリーご飯も美味しそう♪「仁峴市場」の魅力を写真でさらに見る
  • 「チョンファ食品」には簡単に調理してもらえるつまみもある。これは春雨を海苔で巻いて揚げたもの
  • 仁峴市場の北端から2つ目の路地を入ったところにあるシュポ「チョンファ食品」
  • 「ウリ食堂」のチョングッジャン(納豆汁)定食
  • 「ジンミネ」は海鮮が旨い。これはアサリ鍋
  • 「ジンミネ」の女将と息子さん

ソウルのど真ん中にある小さな市場

仁峴市場。聞きなれない名前かもしれないが、日本の人の利用が多いホテルPJ(旧プンジョンホテル)の玄関を背に、通りの右斜め向かいの細い路地にある市場といえば思い出す人が多いのではないだろうか。

忠武路駅前とホテルPJ前を結ぶわずか400メートルほどの細道の両側に小さな店が並んでいる。ソウル広しといえど、市場と名の付く通りとしては屈指の小ささだ。日本の植民地支配が終わったとき日本から引き揚げて来た人や朝鮮戦争のとき北側から避難してきた人たちが始めた闇市が市場のルーツである。

今回は動画を見ながら、この市場の雰囲気を楽しんでもらいたい。スタートは忠武路駅の8番出入口。

 

市場の南側は刺身横丁

まずは進陽商街(世運商街の南端)の左の脇道に入る。頭上では世運商街の北端(宗廟前)から続く空中歩行路の工事中だ。完成すれば、南北約1キロの空中散歩が楽しめるようになる。

最初の角を左折すると飲み屋通りだ。頭上で万国旗が揺れている。日の丸も見える。忠武路の裏通りには小さな印刷工場や紙屋さんが多いので、そこで働く人たちがランチを食べたり一杯やったりする庶民的な店が並んでいる。

カラオケスナックや交番を右手に見ながら進み、青い看板のホルモン焼き屋さんの手前を右に入ったところが仁峴市場の南の端だ。

この辺りには海鮮料理屋が数軒あり、店先の水槽で泳いでいる鯛や平目を刺身にしてもらい、ソジュ(韓国焼酎)を飲むことができる。

「チャガルチ市場」という釜山の名所を冠した店もある。ビールのポスターで斜に構えているのはドラマ『梨泰院クラス』で一躍スターになったパク・ソジュンだ。

「ジンミネ」の女将と息子さん

市場の人気酒場

さらに進むと、通りの両側に入口が木の引き戸になっている店が見えてくる。これが仁峴市場の名酒場「ジンミネ」だ。

地べたに黄色いマッコリケースが置いてある。飲食店の盛衰が激しいこの市場で27年以上続いているのはすごいことだ。

以前は左手の店舗だけだったが、数年前、向かいにも店舗を出したことが「ジンミネ」の人気を物語っている。

大衆的な飲食店のつきだしはキムチとナムルくらいがふつうだが、この店ではなんとスンデ(腸詰)が提供される。注文した料理を待つあいだ、スンデをつまみながら一杯やれるというわけだ。

つきだしでスンデ(腸詰)が出るところが「ジンミネ」の気前のよさを物語る

どうしてそんなに気前がよいのかと女将に聞くと、「開店当初はお客と話すことが苦手で、料理を待ってもらっているあいだのつなぎの会話もろくにできなかったの。ただ待たさせるのが申しわけなくて、代わりにスンデを出すようにしたのよ」。

快活で客あしらいも上手な今の女将からは想像もできないが、彼女にも初心(うぶ)なときがあったのだ。
 

「ジンミネ」は海鮮が旨い。これはアサリ鍋