不況で客足が遠のき大衆向けの洋食屋に変更


ところが、昭和48(1973)年、高度経済成長が続いたこの国をオイルショックが襲った。大井三業地にある洋食屋も客が激減。

「昼も営業しなければならなくなり、ハイヤー運転手の控室だった1階を客室に改めました」

こうして現在の『洋食入舟』が完成。同年、松尾さんが生まれた。

【洋食入舟】 松尾さんと三代目で松尾さんのオジさんがこの厨房で料理を作っている

「店舗も食器も僕が子どもの頃とまったく変わっていません」

『洋食入舟』の味を守ってきた厨房を見せてもらった。令和の厨房とは真逆な、ドラマ『天皇の料理番』で描かれたような厨房だった。

【洋食入舟】 白い扉が特徴的な、いまも活躍中のガスオーブン

とくに、オーブンには驚かされた。

最新の厨房にはスチームコンベクションオーブン(通称スチコン)と呼ばれる調理器具が設置されている。蒸す、焼く、煮る、茹でる、炒める、炊く、揚げるなど1台でほとんどの調理が可能な万能調理器具だ。

ところが、この店では曽祖父が遺したガスオーブンがいまも現役で活躍中。その隣にはやや新しいガスオーブンが1台あったが、白い扉の古いオーブンを愛用しているという。

 

「夜のコース料理にお出しする『ローストビーフ』や『グラタン』をこのオーブンで焼いています。これでないときれいな焦げ目がつかないし、香りも出ないんですよ(笑)」

このガスコンロで焼いたグラタンを食べてみたかったが、夜のコース料理は次の機会に。

今回はランチで提供している料理を2品作ってもらった。

ホッとする、どこか懐かしいオムライス

【洋食入舟】 焼き仕上がりも皿も美しい「オムライス」

まずは『オムライス』(880円 / 以下すべて単品の価格で税込)から。

フライパンで鳥肉とタマネギを炒め、そのなかにご飯を投入。

そのご飯にかからないようにケチャップを入れ、ケチャップの水分を飛ばしてから全体を混ぜる。

何度も何度も鍋をふり、チキンライスを作る。

別のフライパンで作った半熟の卵に、チキンライスをのせる。

フライパンのハンドルを右手で軽くたたきながら卵でチキンライスをふんわりと包めば出来上がり。

【洋食入舟】 料理をシェアする客が多いという。「オムライス」もシェアして食べたい

自分でもチキンライス(オムライスはお手上げ)を作るのだが、なぜか濃い目の味になりがち。

ただ、松尾さんが作ってくれたオムライスは人柄もあってか、とても優しい味がした。